HSPって甘えですか?―JさんのHSPが“資質”になるまでの道のり【後編】
HSPって甘えですか?―JさんのHSPが“資質”になるまでの道のり【後編】
【利用されている? 敏感な自分への疑問】
Mさん:「あの人ほんと無理! Jさん、ああいうの得意でしょ?」
その一言が胸に刺さり、Jさんは帰りの電車で涙をこらえきれなかった。
Jさん:(私は便利な人じゃない。なのに、気を遣いすぎて何も言えない…)
──翌日のカウンセリング。
Jさん:「Yさん、私…自分の“敏感さ”を周りに都合よく使われてる気がして…つらいんです」
Yさんは真剣な表情でうなずいた。
Yさん:「その感覚、大切にしてください。Jさんが優しい人だからこそ、曖昧な境界線を引かれてしまってる。だからこそ、NOと言える優しさも、これからは必要なんです」
Jさん:「NOと言える…優しさ…?」
Jさんは考えた。(「NO」と言うのは、冷たいことだと思っていた。でも、自分を守ることも優しさ、なんだろうか…?)
Yさん:「はい。“すべてを受け取る”のが優しさではなく、“誰を助けるかを選ぶ”ことも、敏感な人の強さです」
【こころの境界線を知る】
Yさん:「ところで、こころの境界線の話って、聞いたことありますか?」
《こころの境界線》
★ 私は何に責任を感じている?
★ これは本当に私が背負う必要があること?
★ 自分を守ることで、結果的に誰を大事にできる?
Yさん:「感情のアンテナは、人と人を繋げる“線”でもあります。だからこそ、自分の中の《こころの境界線》に耳を傾けて繋がりすぎず、丁寧に選ぶことが大切なんですよ」
その言葉に、Jさんは静かに涙を流した。(繋がりすぎない…私、ずっと繋がりすぎて、自分を見失っていたんだ)
【初めての「NO」がくれた気づき】
──数日後。
図書館で、例の同僚・Mさんがまたカウンターで苛立っていた。
Mさん:「またあの人来たよ…。Jさん、代わってくれない?」
いつもなら無言でうなずいていたJさん。だが、この日は少し違った。
Jさん:「Mさん、今日は自分の担当のままでお願いしてもいいですか?
私、今は少し静かにしていたくて」
一瞬の沈黙ののち、Mさんは少し驚いた表情で返した。
Mさん:「…うん、わかった。ごめんね、頼りすぎてた」
拍子抜けするほど、簡単だった。けれどJさんにとっては、小さな革命だった。(言えた…私、自分の気持ちを伝えられた。そして、Mさんは理解してくれたんだ…)
【絵本がつないだ心】
──さらにその翌週。
絵本コーナーで、泣いている女の子とその母親がいた。
母親:「この子、本に興味がなくて…。でも何か読ませたいんです」
Jさんは、そっと近づいてしゃがみ込んだ。
Jさん:「こんにちは。動物、好き?」
女の子はうつむいたまま、かすかにうなずいた。
Jさん:「じゃあ、これ。“夜の森のどうぶつたち”って絵本。絵だけでもきれいだから、開くだけでいいよ」
女の子はそっと本を受け取った。しばらくして──
女の子:「これ、好き」
母親は目を潤ませながら頭を下げた。
母親:「ありがとうございました。この子がこんなふうに反応するなんて、初めてです」
その日、Jさんは、まっすぐに空を見上げた。
Jさん:(私の“敏感さ”は、たしかに人の心に触れていたんだ。この子は、私にしか見つけられなかった「好き」を見つけてくれた。私、このままここにいていいんだ…)
【最終カウンセリングの日】
Yさん:「もう、なんだかんだで3ヶ月ですね」
画面越しのYさんが笑った。
Jさん:「はい。なんだか不思議です。自分の“アンテナ”を嫌っていたのに、今はそれで誰かと繋がれる気がしてます」
Yさんはやわらかく目を細めた。
Yさん:「初めてお話した時と比べて、JさんはJさん自身の資質をずいぶん上手に扱えるようになってきたのだなと思います」
Jさん:「…Yさん、本当にありがとうございました。私、もう少し自分のこと、好きになれそうです」
【エピローグ:図書館の“静かな人気者”】
図書館には、ひっそりと“相談の列”ができていた。
利用者:「Jさん、最近ちょっと元気出なくて…何かいい本、ありますか?」
Jさん:(この人には、あの本が合うかも。あの子には、優しいタッチの絵本がきっと響く)
Jさんは、今日も誰かにそっと本を手渡す。その目は、かつてよりずっと優しく、でも強かった。
──仕事終わり。少しざわついた休憩室を抜けて、Jさんは静かな書架の奥へ向かう。
Jさん:「今日はちょっと疲れたな…よし、“静かな書架タイム”発動!」
そして、ふとスマホを取り出し、久しぶりにカウンセリングのページを開いた。
Jさん:「今、苦しんでる誰かも…ここに繋がってくれますように」
Jさんが少しずつ、自分の「敏感さ」を“資質”として受け入れていったように——
あなたの中にも、まだ見えていない大切な力が眠っているかもしれません。
HSPは決して「甘え」でも「弱さ」でもありません。
むしろ、深く感じ、丁寧に気づけるあなたの感性は、これからの時代を支える大きな強みになる可能性を秘めています。
ここからは、Jさんの物語をもとに、心理学の視点から「敏感さ」とどう向き合い、活かしていけるかをやさしく解説していきます。
あなた自身の気持ちにも、そっと寄り添える時間になりますように。
※本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
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