東京の夜に飲み込まれる光と影 そして一筋の光【後編】

 

 前編では、玲奈さんがOLとガールズバーの掛け持ちによる疲弊、そして止められない買い物依存に苦しむ様子、ガールズバーで働くことになった経緯、そしてオンラインカウンセリングを受け始めたきっかけをお伝えしました。カウンセラーのYさんの穏やかな問いかけによって、玲奈さんは自身の行動の根底にある寂しさや承認欲求に気づき始めます。ここから、玲奈さんの心の奥底に光が灯されていく、感動の物語が始まります。


過去と向き合う涙

玲奈さん:「お客様に『可愛いね』とか『玲奈ちゃんがいると楽しいよ』『また会いたい』って言われると、その時は本当に嬉しいんです。必要とされている気がして、自分には価値があるんだって思える。でも、それは本当に一瞬で家に帰って、一人になると、結局何も残らない。虚しさだけが残って、どうしてこんなところで働いているんだろうって、いつも思うんです。本当は、こんなところで働きたくないんです。」



Yさん:「そうなんですね。玲奈さんは、誰かに『必要とされている』と感じることで、心の隙間を埋めようとしていたのですね。そして、初めて高価な買い物をした高校生の時の寂しさも、きっと同じような感情だったのかもしれませんね。」


 Yさんの言葉は、玲奈さんがこれまで無意識に感じていた感情に、明確な形を与えてくれました。玲奈さんはハッと目を見開きます。


玲奈さん:「そうなんです!まさにその通りです!」


 心の中にぼんやりとあった霧が晴れていくような感覚でした。玲奈さんは、これまでの買い物が、そしてガールズバーでの時間が、実は心の隙間を埋めるための行為だったことに、ハッキリと気づいたのです。その気づきは、玲奈さんの心を大きく揺さぶりました。同時に、長年抱えていた漠然とした苦しみの正体が少しずつ見えてきたことで、一筋の光が差し込んだような感覚を覚えました。


 カウンセリングは、玲奈さんの心の奥底にある感情を、決して急かすことなく、しかし確実に引き出していくものでした。玲奈さんは、Yさんが決して自分を否定しない、ただありのままを受け入れてくれる姿勢に、心から安心感を覚えていました。


Yさん:「玲奈さん、買い物をしている時の気持ちをもう少し詳しく教えていただけますか? 手に入れた瞬間の高揚感から、その後の虚しさに変わるまでの、心の動きを。」


玲奈さん:「えっと最初は、本当にキラキラした気持ちになります。これが手に入ったら、私の生活はもっと良くなるって、すごくワクワクして。実際に手に入れた瞬間は、満たされた気持ちになります。周りの人から羨ましがられるような、少し誇らしい気持ちも。でも、それもつかの間なんです。すぐに『また無駄遣いしちゃった』って後悔が押し寄せてきて、手に入れたものを見ても、何だか心が虚しくなって


 玲奈さんの言葉に、Yさんは深く頷きます。その静かな頷きは、玲奈さんの言葉の一つ一つを丁寧に受け止めているように感じられました。


Yさん:「その虚しさは、何に似ていますか? これまでの人生で、同じような虚しさを感じたことはありますか?」

 Yさんの問いかけに、玲奈さんの心臓が強く脈打ちました。その問いは、玲奈さんがこれまで考えたこともなかった視点を与えてくれたのです。虚しさ。その感覚は、まるで幼い頃、両親が共働きで家に一人でいることが多く、寂しい思いをしていた時の感情とそっくりだったのです


玲奈さん:「私寂しかったんだ。ずっと、誰かに認めてほしかったんだと思います。小学生の頃、テストで良い点を取っても、両親は忙しくてなかなか褒めてくれなくて頑張っても、見てくれる人がいないって、いつも思ってました。だから、買い物も、ガールズバーも、結局は自分の居場所を探して、誰かに『ここにいていいよ』って言ってほしかっただけなのかもしれません」

 玲奈さんの目から、大粒の涙がこぼれ落ちました。それは、これまで心の奥底に押し込めていた、小さな自分自身の叫びでした。その涙は、苦しみだけではなく、これまで気づかなかった自分への慈しみ、そして解放感の涙でもありました。


Yさん:「寂しさや承認欲求は、誰もが持っている自然な感情です。玲奈さんは、その感情と向き合うの丁度いい方法が見つからなかったのかもしれませんね。でも、それに気づけたことは、本当に大きな、大きな一歩ですよ。これからは、寂しさや承認欲求を、買い物やガールズバー以外で満たす方法を一緒に探していきましょう。」


 カウンセリングが進むにつれて、玲奈さんは自身の買い物依存が、そしてガールズバーでの仕事が、単なる「悪い習慣」なのではなく、幼少期の寂しさや承認欲求といった、心の奥底にある深い感情から来ていることを深く理解していきました。そして、それらの行為で一時的に満たされる感情の裏に、もっと深い心の叫びがあったことに気づいたのです。自分を責める気持ちが少しずつ和らぎ、自分を理解しようとする気持ちが芽生え始めました。


新たな自分への一歩      

 玲奈さんはカウンセリングで、気持ちを言葉にする中で、買い物やガールズバー以外の方法で心の隙間を埋める方法を模索し始めました。まず、最も心身を消耗させていたガールズバーを辞めるための具体的な計画を立てることから始めました。Yさんは、玲奈さんの不安な気持ちに寄り添いながら、辞めるまでの段取りや、辞めた後の生活の見通しを一緒に考えてくれました。


Yさん:「すぐには無理でも、一歩ずつ進んでいきましょう」

というYさんの言葉に、玲奈さんは勇気づけられました。


 そして、休日の過ごし方も大きく変わっていきました。これまでのように衝動的な買い物に出かけるのではなく、カウンセリングで話し合って考えた心の平穏を取り戻すための活動を積極的に取り入れました。久しぶりに大学時代の親友、恵美さんとカフェでゆっくり話し込み、悩みや喜びを分かち合う時間を持つようになりました。以前は「そんなこと話しても理解されないだろう」と諦めていたことも、素直に打ち明けられるようになったのです。また、前から興味のあったヨガを始めてみると、心地よい疲労感とともに、心が落ち着くのを感じました。体を動かすことで、これまで頭の中でぐるぐる考えていたネガティブな感情が少しずつ薄れていくようでした。一つ一つの小さな変化が、玲奈さんの生活を彩り豊かにしていきました。


 玲奈さんは、買い物やガールズバーで得ていた一時的な「満たされた」感覚が、実は本当の自分をすり減らしていたのだと、心の底から理解しました。友人との何気ない会話や、体を動かすことで得られる心地よさ、そして何より、自分自身の感情に素直に耳を傾ける時間こそが、心の真の栄養となることを実感し始めたのです。無理に何かを埋めようとするのではなく、自分自身を慈しみ、小さな喜びを丁寧に拾い集めること。それが、玲奈さんがカウンセリングを通じて見つけ出した「健全な方法」でした。

 

本当の自分を取り戻して

 ある日、カウンセリングの終盤に差し掛かった玲奈さんは、Yさんに満面の笑みで言いました。その表情は、以前のどこか影のある表情とは全く違い、自信と輝きに満ちていました。


玲奈さん:「Yさん、私、最近、新しい洋服を買わなくても、心が満たされるようになりました。本当に不思議なんです。前は毎日ショッピングサイトを見ていたのに、今は心から『欲しい』と思えるものが少なくなりました。それに、ガールズバーを辞める準備も順調に進んでいるんですが、正直、不安よりも解放感の方が大きくて。本当の私を、やっと取り戻せる気がします。自分に自信が持てるようになって、会社のOLの仕事も、以前よりずっと楽しくなりました!」


 玲奈さんの言葉に、Yさんも心からの穏やかな笑みを浮かべました。その笑顔は、玲奈さんのこれまでの努力と成長を称えるものでした。


Yさん:「玲奈さん、本当に素晴らしい変化ですね! 自分の心と真摯に向き合い、一歩踏み出した玲奈さん本当にすごいと思います。どんな時も、自分自身を信じてあげてください。玲奈さんなら、きっと大丈夫です。これからは、玲奈さん自身の心の声に耳を傾け、大切にしてくださいね。」


 カウンセリングを終えた玲奈さんの表情は、以前よりもずっと明るく、自信に満ちていました。クローゼットの洋服はまだたくさんありますが、玲奈さんはもう、物で心を埋めようとはしません。オンラインカウンセリングを通じて、玲奈さんは自分自身と深く向き合い、心の奥底にある本当の欲求に気づくことができました。そして、その欲求を満たすための、健全な方法を見つけることができたのです。


 もし、あなたが玲奈さんのように、今の自分に違和感を覚えたり、心のどこかに満たされない感情を抱えているとしたら、それは「変わる」ための大切なサインかもしれません。自分一人で抱え込まず、専門家のサポートを求める勇気が、あなたの人生を新しい光で照らす一歩になるでしょう。オンラインカウンセリングは、あなたのペースで、あなたの心の声に耳を傾ける安全な場所を提供します。あなたの心が、本当に求める輝きを見つけられますように。


 この物語は、あなたの心に何か響くものがあったでしょうか? 次回は、玲奈さんの経験を通して見えてくる心の動きについて、心理学的な視点から深掘りし、あなたの日常にも役立つヒントを「編集後記」としてお届けします。


※本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。

【監修:Nカウンセリングオフィス



 

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