空虚感を埋める場所 都内で働くIさんの物語【前編】
空虚感を埋める場所 都内で働くIさんの物語【前編】
順風満帆な日常の裏側
都内の大手メーカーに勤務する28歳のIさんは、社会人6年目を迎え、仕事にもすっかり慣れて責任ある業務も任されるようになりました。きっちりとした服装に身を包み、オフィスでは真面目で仕事熱心な印象を与えています。休日は友人とカフェ巡りやショッピングを楽しむ、ごく普通の女性です。
順風満帆に見えるIさんの日常でしたが、心の中には漠然とした空虚感が広がっていました。「仕事は楽しいけれど、このままで本当にいいのかな?
何かが足りない」。どこからともなく湧いてくる寂しさのようなものが、Iさんの心を締め付けることが増えていたのです。
特に、仕事で大きなプロジェクトを終え、達成感を感じるはずの瞬間にさえ、ふと虚しさを覚えることがありました。同僚たちが仕事の打ち上げで盛り上がっている時も、一人になると「この賑やかさも、結局は一時的なもの」と感じてしまう。
ある夜、久しぶりに実家に電話をかけた時も、他愛のない世間話の後に訪れる沈黙がたまらなく寂しかった。「最近どう?彼氏とかできたの?」と優しく尋ねる母の声に、「うん、まあね…」と曖昧に答える自分がいました。本当は、誰かに心から必要とされたい、愛されたいという気持ちでいっぱいなのに、それを素直に口に出すことができない。そんな自分の不器用さに、Iさんは密かに涙を流すこともありました。SNSで友人たちの充実した日常を見ては、「みんなは本当に楽しそうでいいな」と、自分だけが置いていかれているような焦りを感じることもありました。親しい友人に相談しようと思っても、「恵まれた環境なのに何を悩んでいるの?」と思われそうで、なかなか言い出せずにいたのです。
初めてのホストクラブ
そんなある日、友人に誘われるまま、軽い気持ちでホストクラブを訪れました。きらびやかなシャンデリア、耳をつんざくような音楽、そして甘い言葉をささやくホストたち。Iさんにとって、それはすべてが初めての体験でした。
「Iさん、今日までお疲れ様です。頑張ってるIさんは、本当に素敵ですよ」
担当になったホストの蓮さんが、Iさんの目を見て優しく微笑みかけました。仕事の愚痴や、誰にも言えなかった心のモヤモヤを蓮さんは真剣に聞いてくれ、Iさんの気持ちに寄り添ってくれました。
現実では味わえないような特別感と、自分を肯定してくれる蓮さんの存在は、Iさんの心の隙間を埋めるかのように感じられました。あっという間に時間が過ぎ、店を出る頃には、Iさんの心は高揚感に包まれていました。
深い沼へ
それから、Iさんはホストクラブに通い詰めるようになりました。
仕事終わりの週に2、3回は当たり前。給料のほとんどをホストクラブにつぎ込み、次第に借金まで抱えるようになりました。ホストクラブにいる間は満たされるけれど、家に帰ると押し寄せる自己嫌悪と後悔の念。「このままじゃダメだ、でも、どうすれば…」。Iさんは、深い沼にはまっていくような感覚に陥っていました。
このままではいけないと分かっていても、どうすることもできない深い悩みに囚われてしまったIさん。果たして彼女は、この状況から抜け出すことができるのでしょうか。後編では、そんなIさんの新たな一歩についてお伝えします。
※本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
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