Hさんの心の旅〜キラキラ大学生の裏側〜【後編】
Hさんの心の旅〜キラキラ大学生の裏側〜【後編】
初めてのカウンセリング、そして「審査員」との出会い
不安に揺れる心を抱えながらも、Hさんは初回のオンラインカウンセリングの日を迎えました。緊張しながらPCの前に座ると、画面に映し出されたのは、穏やかな笑顔の男性カウンセラー、Yさんでした。
Yさん「Hさん、こんにちは。今日はよく来てくださいましたね。どんなことでも、Hさんのペースで話してくださいね」
Hさん「あの…私、人と話す時、すごく考えすぎちゃうんです。これを言ったら嫌われるかなとか、つまらないって思われたらどうしようとか…それで、結局何も話せなくなっちゃって…」
YさんはHさんの言葉にじっと耳を傾け、頷きながら言いました。
Yさん「なるほど。Hさんは、相手にどう思われるかをすごく大切にされているんですね。それは、Hさんの優しさでもありますよ」
自分の悩みが「優しさ」だと言われて、Hさんは少し驚きます。
Hさん「でも、そのせいで、すごく疲れちゃうんです。本当の自分が出せてない気がして…」
Yさん「そうですよね。それはとてもしんどいことだと思います。まるで、頭の中に小さな審査員がたくさんいて、Hさんの言葉一つ一つに点数をつけているような感じでしょうか?」
Yさんの言葉に、Hさんは思わず吹き出しました。
Hさん「あはは!まさにそれです!審査員が『今の発言は50点!』とか『もっと面白いこと言え!』って言ってるみたいです!」
Yさんもにこやかに笑いました。
Yさん「面白い表現ですね!その審査員たち、ちょっと厳しすぎるかもしれませんね。Hさんは、その審査員たちに、どんな言葉をかけてあげたいですか?」
Hさんは少し考えました。
Hさん「うーん…『もうちょっと休んでいいよ』って…」
Yさん「いいですね!では、今日からHさんの頭の中にいる審査員たちに、『今日は休憩!』って言ってあげる練習をしてみませんか?完璧じゃなくても大丈夫。まずは、Hさんの言葉をそのまま出してみる練習から始めましょう」
弱さを見せる勇気
その日から、YさんとHさんは「考えすぎてしまう具体的な場面」を一緒に掘り下げて、その思考パターンを客観的に見る練習を始めました。ロールプレイング形式で会話の練習をする中で、Hさんは徐々に「会話の中で失敗しても大丈夫」という安心感を得るようになってきました。
あるセッションでのこと。Hさんは、最近友達と旅行計画を立てている時のモヤモヤを打ち明けました。
Hさん「旅行の行き先とか、ホテルとか、本当はもっとこうしたいって意見があったんですけど、もし私の意見でみんなに迷惑かけたら嫌だなと思って、結局『なんでもいいよ』って言っちゃったんです。でも、正直、ちょっと不満が残ってて…」
YさんはHさんの言葉にじっと耳を傾け、穏やかに尋ねました。
Yさん「Hさんは、その時、どんな気持ちでしたか?」
Hさん「なんていうか…言いたいことを我慢してる自分がすごく嫌でした。でも、みんなが楽しそうで、私が波風立てちゃいけないって思っちゃって…」
Hさんの声が少し震えました。
Yさん「そうですよね。自分の気持ちを抑え込むのは、本当に辛いことですよね。もし、Hさんが素直に『私はここに行きたいな』とか、『このホテルの方がいいな』って伝えていたら、友達はどんな反応をしたと思いますか?」
Hさんは目を伏せて考えました。
Hさん「うーん…もしかしたら、『そっか、Hはそう思うんだね』って、聞いてくれたかもしれないです。でも、もし反対意見が出たらって思うと…」
Yさん「そうですね。反対意見が出る可能性はゼロではありません。でも、それもコミュニケーションの一部です。大切なのは、Hさんの気持ちをきちんと伝えることです。意見が違っても、お互いを尊重しながら、より良い答えを見つけることだってできるはずですよ。Hさんの意見が、みんなにとって新しい発見になることだってあります。友達はHさんが思っている以上に、Hさんの気持ちを大切に考えてくれているかもしれませんね」
Yさんの言葉が、Hさんの心にじんわりと染み渡りました。今まで「和を乱したくない」という思いから、自分の意見を引っ込めていたけれど、それは自分自身を否定することでもあったのだと、初めて気づかされたのです。Hさんの目から、また涙が溢れました。今まで、自分の弱さを見せることが怖かったけれど、それを認めてもいいんだと、初めて思えたからです。
審査員との共存、そして新しい私へ
カウンセリングを続けるうちに、Hさんの日常は少しずつ変化していきました。ゼミの発表で、完璧な言葉を選ぼうとせず、自分の意見を率直に話せるようになったのです。友達との会話では、頭の中の「審査員」が騒ぎ出しても、「今日は休憩!」と心の中で唱え、自然な相槌や感想を言えるようになりました。
もちろん、完璧に「考えすぎ」がなくなったわけではありません。けれど、以前のようにその思考に囚われて、身動きが取れなくなることはなくなりました。むしろ、「あ、また審査員が来たな」と、少しユーモラスに受け止められるようになったのです。
先日、Hさんは大学の食堂で、気になる男子と偶然隣の席になりました。以前なら、何を話せばいいかパニックになっていただろう場面です。けれど、Hさんは深呼吸をして、自然に話しかけました。
Hさん「あれ?F君も今日のランチ、これなんだ!美味しいよね」
Fくんは笑顔で「うん、これ好きなんだ」と答えてくれました。Hさんは、その会話が途切れても、無理に話題を探そうとはしませんでした。ただ、目の前のランチを味わい、時折Fくんと目が合えば、にこやかに微笑み合ったのです。
Hさん「あれ?私、今、普通に話せてる…!」
心の中で、小さなガッツポーズをしました。
Nカウンセリングオフィスでのオンラインカウンセリングは、Hさんにとって、自分自身と向き合い、心の重荷を下ろす場所となりました。画面越しのYさんの笑顔と温かい言葉は、Hさんの心を優しく包み込み、一歩踏み出す勇気をくれたのです。
Hさんは今、以前よりもずっと、自分らしく、そして楽に人と関わることができています。頭の中の「審査員」の声は、まだ時々聞こえるけれど、もうHさんを縛り付けることはありません。オンラインカウンセリングは、Hさんの人生に、新しい風を吹き込んでくれたのです。
Hさんの物語はここで終わりですが、彼女の心の旅は、私たち自身の心にも深く響くのではないでしょうか。この物語を通して、読者の皆さんに伝えたいことがあります。編集後記で、Hさんの経験から得られる心理学的な洞察と、あなたの心に寄り添うメッセージをお届けします。
※本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
コメント
コメントを投稿