【ASD版】「黒い考え」に支配されそうな時、試してほしいシンプルな言葉と3つの習慣
「どうして、いつもこうなんだろう…」その苦しさは"白黒思考"が原因かもしれません
予期せぬ予定変更で、頭が真っ白になる。
誰かの一言が、一日中ずっと頭から離れない。
一つの小さなミスで、「自分の人生はもうおしまいだ」と感じてしまう。
もし、あなたがこのような経験に心当たりがあるなら、それはASD(自閉スペクトラム症)の特性の一つである「白黒思考(All-or-Nothing Thinking)」(注1)が影響しているのかもしれません。世界が「完璧(白)」か「完全な失敗(黒)」かの二択に見えてしまい、その思考の極端さに苦しんでいませんか?
注1:ASD以外の人も陥りやすい思考ですが、今回の記事ではASDの方の脳の特性に関する説明と対処方法について記事を作成しています。
この記事では、なぜASDの当事者は白黒思考に陥りやすいのか、そのメカニズムを紐解きながら、"真っ黒な気持ち"に支配されそうになった時に心を少しだけ軽くする、シンプルな対処方法をご紹介します。白黒思考は、単はあなたの性格の問題ではありません。後天的に学んだ考え方の癖や脳の特性からくるものです。その特性を理解し、自分に合った杖を持つことで、世界はもう少しだけ、生きやすい場所に変わるかもしれません。
なぜASDの脳は「黒」で埋め尽くされやすいのか?
「考えすぎだよ」と言われても、止められない。その背景には、ASD特有の脳の働きがあります。
理由①:シングルフォーカスと「虫眼鏡」効果
ASDの特性の一つに「シングルフォーカス」があります。これは、一つの事柄に非常に強く集中する力のことです。この力は、専門分野をとことん追求する際などには素晴らしい才能として発揮されます。
しかし、ネガティブな出来事に対してこの力が働くと、まるで虫眼鏡で小さな「黒い点」を覗き込むように、その一点が視野のすべてを覆い尽くしてしまいます。他の部分にはたくさんの「白い部分」が残っているにもかかわらず、脳は「黒い点」だけを強烈に認識し、「すべてが真っ黒だ」と結論づけてしまうのです。
理由②:脳の「省エネモード」としての白黒思考
私たちの脳は、できるだけエネルギー消費を抑えようとする性質があります。曖昧な「グレーゾーン」を考え続けることは、実は脳にとって非常にエネルギーを使う複雑な作業です。
特にASDの人は、感覚過敏への対処や社会的コミュニケーションなど、日常生活の中で定型発達者よりも多くの精神的エネルギー(MPみたいなものです(謎))を消費している場合があります。そのため、無意識のうちに「危険(黒)か、安全(白か)」というシンプルな二択で世界を判断する「省エネモード」に入りやすい、という見方もできます。これは、脳が自分を守るための、ある種の生存戦略とも言えるのです。
理由③:想像力の特性と不安の増幅
「もし、こうなったらどうしよう…」と、未来の不安を鮮明に想像してしまうのもASDの特性の一つです。この想像力がネガティブな方向に向かうと、「上司に呼ばれた」という事実から、「きっと重大なミスをしてクビになるに違いない」という最悪のシナリオ(黒い未来)を瞬時に構築してしまいます。事実と想像の境界線が曖昧になり、まだ起きていない「黒い未来」に現実が乗っ取られてしまうのです。
「何の問題もない」― この言葉が"魔法"になる3つの理由
不安の渦に飲み込まれ、思考がぐるぐると回り始めた時。だまされたと思って、「何の問題もない」と、少しだけハッキリした声で口に出してみてください。思いの外、効果があることに驚くかもしれません。その理由は、単なる気休めではありません。
理由① 思考の強制停止
頭の中で暴走する思考(反芻思考)は、止めようとすればするほど勢いを増すことがあります。しかし、「声を出す」という物理的なアクションは、その思考のループに強制的に割り込み、一旦停止させるブレーキの役割を果たします。
理由② 聴覚からの客観視
「黒」に染まった主観の世界にいる時、あなたの脳は「もうダメだ」という内なる声しか聞いていません。しかし、自分の口から発した「何の問題もない」という言葉が自分の耳から入ってくると、脳はそれを「外部からの客観的な情報」として認識しやすくなります。「あれ、本当にそうかも?」と、主観一色の世界に、客観という別の色を混ぜ込むことができるのです。
理由③ アファメーション効果
肯定的な言葉を繰り返すことは、心理学で「アファメーション」と呼ばれます。不安や恐怖を感じると、脳の「扁桃体」という部分が過剰に興奮します。「何の問題もない」という言葉は、この扁桃体の興奮を鎮め、安心感を司る神経伝達物質の分泌を促す効果が期待できます。⇒アファメーション効果について、もっと実践的な使い方を知りたい方はコチラ
【ポイント】「何の問題もない」という言葉に抵抗がある方へ
「問題だらけなのに、嘘はつけない」と感じる方もいるでしょう。その場合は、無理に使う必要はありません。あなたにとってしっくりくる「お守りの言葉」を見つけることが大切です。更に大切なのは、この「お守りの言葉」の理由や妥当性を探さないことです。私の臨床経験上、「お守りの言葉」への理由を探し始めると、多くの人は大丈夫ではない理由探しをひたすらしてしまうことが、ほぼわかっています(あくまでも臨床経験からくる個人の感想ですが💦)
「今は、大丈夫」 (未来ではなく"今"に焦点を当てる)
「これは、私の命に関わる問題ではない」 (客観的な事実でハードルを下げる)
「一旦、保留」 (今すぐ白黒つけなくても良いと許可する)
「大丈夫。なんとかなる」
「言葉」と組み合わせたい、心を軽くする3つの習慣
「お守りの言葉」と併せて行うことで、より効果的に白黒思考の沼から抜け出しやすくなる習慣をご紹介します。
習慣①:「事実」と「自分の解釈」を書き出して分離する
頭の中が混乱している時は、「事実」と、それに紐付いた「黒い解釈」がごちゃ混ぜになっています。紙やスマホのメモ帳に、この2つを書き出して分けてみましょう。
事実: 「上司に『あとで話がある』と言われた」
自分の解釈(黒): 「きっと、あのミスがバレて怒られる。クビになるかもしれない」
書き出すことで、「ああ、自分が怖がっているのは、まだ起きていない"解釈"の部分なんだな」と客観的に認識でき、冷静さを取り戻すきっかけになります。
習慣②:安心できる「お守り行動」を決めておく
不安が襲ってきた時に、「これをすれば少し落ち着ける」という「お守り行動」をあらかじめ決めておきましょう。選択肢が多いとパニックになるので、できるだけシンプルで、すぐに実行できるものがおすすめです。
お気に入りのハーブティーを淹れる
決まった曲を1曲だけ聴く
特定の肌触りの良いタオルハンカチを握る
ベランダに出て5回深呼吸する
「不安になったら、これをやる」と決めておくだけで、「対処法がある」という安心感が生まれます。
習慣③:「50点でOK」とグレーゾーンに慣れる練習
白黒思考の根底には、「100点(白)でなければ0点(黒)だ」という完璧主義が隠れていることがあります。いきなりすべてを曖昧にすることは難しいので、小さなことから「50点でOK」と自分に許可を出す練習をしてみましょう。
部屋の掃除は、床に物が落ちていなければOK
食事の準備は、一品作れたらOK
仕事のメール返信は、要点が伝わればOK
「完璧ではないけれど、まあ大丈夫」という「グレーゾーン」の経験を少しずつ積み重ねることで、脳は「白か黒か」以外の選択肢があることを学んでいきます。
【まとめ】あなたは一人じゃない。「黒い世界」に窓を開けるために
ASDの特性からくる白黒思考は、あなたの努力不足や性格のせいでは決してありません。むしろ、物事を真剣に捉え、誠実であろうとする心の表れでもあります。その力が、時にはあなた自身を深く傷つけてしまうだけなのです。
今回ご紹介した「何の問題もない」という言葉は、真っ黒に塗りつぶされたあなたの世界に、小さな風穴を開けるための、シンプルでありながらも強力な方法の一つです。
すぐにうまくできなくても、あきらめたり、自分を責めないでください。まずは、できそうなことから一つだけ、試してみてください。その小さな一歩が、あなたの心を少しずつ軽くしていくはずです。
【ご家族や支援者の方へ】
ご本人が「黒い考え」に囚われている時、周囲が「そんなことないよ」と強く否定すると、かえって心を閉ざしてしまうことがあります。まずは「そう感じているんだね」と気持ちを受け止めた上で、「何か手伝えることはある?」「少し休んでみる?」と、本人が自分の力で抜け出すための選択肢をそっと提示してあげてください。本人のペースを尊重し、様々な対処法を一緒に試しながら、その人だけの「お守り」を見つける旅路を見守っていただけたら幸いです。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
コメント
コメントを投稿