咲く場所を求めて:自己主張が苦手なOさんの小さな一歩【後編】
後編:変化への一歩と確かな手応え
前編で、カウンセラーのYさんの言葉に少しずつ心が解きほぐれていった咲。後編では、さらに深く自分と向き合い、成長していく姿を描きます。
完璧主義からの解放
咲「そうですね…例えば、職場のミーティングで、新しい業務改善案について話し合う時です。みんなが活発に意見を出し合っている中で、私も『こうしたらもっと良くなるのに』と思うことはあるんです。でも、いざ発言しようとすると、『こんなこと言ったら、変に思われるかな』とか、『もっといい意見があるんじゃないか』とか考えてしまって、結局何も言えずに終わってしまうことがほとんどで…」咲は、これまでの自分の行動を振り返りながら話しました。
Yさん「なるほど。それは、小野寺さんの真面目さや、周りの意見を尊重する気持ちが強いからかもしれませんね。自分の意見が、誰かにとって不利益になるのではないか、あるいは完璧なものではないのではないか、と考えるのかもしれませんね。そういった気持ちから、言葉に詰まってしまうのですね。」
咲「まさに、その通りです!」と、初めてYさんの言葉に強く同意しました。自分の心の奥底にあった感情が自分の中ではっきりと形になるような感覚がありました。
Yさん「完璧でなければならない、という気持ちが、小野寺さんを立ち止まらせてしまうのですね。では、その完璧でない意見を出すことについて、小野寺さんはどう感じますか? 例えば、ミーティングの場は、どのような場所だと捉えていますか?」
咲は、しばらく考えました。
咲「ミーティングは…みんなで意見を出し合って、より良いものを作る場ですよね。だから、私の『こうしたらもっと良くなるのに』という考えも、もしかしたら、他の人にとって、新しい視点や気づきになるかもしれない…たとえそれが完璧じゃなくても、議論を深めるきっかけになることもあるのかもしれない、と今、思いました。」
咲「でも…もし、私の意見が間違っていたらどうしようって、いつも考えてしまいます。」
失敗は学びの機会
Yさん「間違っていたらどうなると思いますか? 小野寺さんは、高校時代に吹奏楽部でクラリネットを吹かれていたとお聞きしました。初めてクラリネットを吹いた時、最初から完璧な音が出ましたか?」
咲は、思わずフッと笑いました。
咲「いえ、全然(笑)。最初は変な音ばかりで、先輩に『もっと息をしっかり入れて!』って怒られてました。」
Yさん「そうでしたか。そこから、どうやって上達していきましたか?」
咲「練習を重ねて、少しずつ音が出せるようになって、アンサンブルの中で自分の役割を果たせるようになりました。先輩に教えてもらったり、自分で吹き方を変えてみたり…。」
Yさん「素晴らしいですね。では、今の状況と、そのクラリネットの練習の日々を重ねてみると、何か見えてくるものはありますか?」
咲は目を閉じ、じっと考えました。咲「今の状況も、それと似ているのかもしれません。まだ、自分の意見を出す練習段階なんだって。少しずつ、場数を踏んでいけば、きっと自然にできるようになる…そう思えました。」
咲の心の中で、まるで、ずっと分厚い壁に阻まれていた視界が、一気に開けたような感覚がありました。
新たな挑戦と達成感
その日から、咲の意識は少しずつ変わっていきました。職場のミーティングでは、まず「何か一つでも発言してみよう」という小さな目標を立てました。最初は緊張で声が震えましたが、Yさんの言葉と、クラリネットの練習を重ねた自分を思い出し、「間違っていても大丈夫」と自分に言い聞かせました。
ある日、業務改善について話し合う中で、咲は勇気を出して手を挙げました。咲「あの…少し、気になったことがあるのですが、現在のシステムだと、月末のレセプト作業の際に、データの連携がスムーズにいかない部分があるように思います。もし、もう少し早めに、各部署からのデータ提出があれば、私たち医療事務の作業負担も減らせるのではないでしょうか?」
会議室が少し静かになりました。咲はドキドキしながらみんなの顔を見ました。すると、主任が「小野寺さん、それはいい視点だね。確かに、月末は残業が増える傾向にあるし、その原因の一つになっているかもしれない。具体的な改善策も考えてみようか。」と言ってくれたのです。他の同僚たちも、「そうですね」「確かに困っていた部分です」と賛同してくれました。
その瞬間、咲の心に温かい達成感が広がりました。自分の意見が、ちゃんと受け入れられた。そして、それがみんなの役に立つかもしれない。
輝き始めた「私」
それからも、咲は少しずつ、自分の意見を表現する練習を続けました。完璧を目指すのではなく、まずは「話してみる」ことを大切にしました。Yさんとのカウンセリングは、その後も定期的に続けられました。咲は、Yさんにその日の出来事や感じたことを話し、Yさんはいつも、咲の言葉に耳を傾け、共感的に受け止めてくれました。
ある日のカウンセリングで、咲はYさんに言いました。咲「Yさんとお話しするようになってから、本当に自分が変われたような気がします。以前は、自分に自信がなくて、いつも周りの目を気にしてばかりでした。でも、今は、少しずつ自分の意見を言えるようになって、それが誰かの役に立つ喜びも感じられるようになりました。本当にありがとうございます。」
Yさんは、温かい笑顔で応えました。Yさん「小野寺さん、ご自身で変化を感じていらっしゃるのですね。その変化は、小野寺さんにとってどのような意味を持ちますか?」
咲「それは…私自身の努力と、成長したいという強い気持ちがあったからだと、今、感じています。あと・・・Yさんは、私が私自身の力で輝けるように、ずっと見守って、引き出してくださったのだと思っています」
オンラインの画面越しではあったけれど、ここでの時間が、自分の人生を大きく変えるきっかけになったと咲は感じていました。
Yさん「小野寺さんが、ご自身でそのように感じていらっしゃることを、私も嬉しく思います。これからも、何か困ったことがあったら、いつでも相談してください。Nカウンセリングオフィスは、いつでも小野寺さんの味方です。」
Nカウンセリングオフィスでのカウンセリングは、咲にとって、自分自身と向き合い、新たな一歩を踏み出すための大切な時間となりました。咲の物語は、これからも続いていきますが、このショートストーリーはここで一度終結を迎えました。
「咲く場所を求めて:自己主張が苦手なOさんの小さな一歩」後編を最後までお読みいただき、ありがとうございます。この物語を通して、私たちは咲さんの心理的な変化を目の当たりにしました。彼女がどのようにして内なる声に耳を傾け、行動へと移していったのか。その背景には、どのような心理が働いていたのでしょうか。
続く編集後記では、このストーリーに沿った心理学的な分析を深掘りし、咲さんの経験が、読者であるあなた自身の「咲く場所」を見つけるためのヒントとなるよう、簡単なアドバイスをお届けします。
本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
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