結婚20年目の専業主婦Pさんとカウンセリングの物語 - 後編:私だけの輝き
心の解放と自己発見の始まり
オンラインカウンセリングから一週間後、Pさんは少しだけ表情が和らいでいた。前回、Yさんの前で涙を流したことで、心が少し軽くなったのを感じていたのだ。
P「Yさん、こんにちは」
Y「Pさん、こんにちは。先日はありがとうございました。少しはお気持ちが楽になりましたか?」
Yさんの穏やかな声に、Pさんは頷いた。
P「はい、少しですが。Yさんが、私の昔の姿を思い出させてくれたおかげで、自分にも良いところが少しはあったんだなって思えました」
Yさんはにこやかに頷いた。
Y「Pさん、それは素晴らしい発見ですね。ご自身の良いところに気づくことは、自己肯定感を高めるための第一歩です。今日は、Pさんがこれまでの人生で『楽しかったこと』『嬉しかったこと』『達成感を感じたこと』などを、具体的に教えていただけますか?」
Pさんは少し考え込んだ。専業主婦になってからは、子どものことばかりで、自分のことなんてあまり考えてこなかった。
P「えっと……高校のESS部で英語劇の脚本を書いたこと、ですね。徹夜して、仲間とああでもないこうでもないって言いながら、一つの作品を創り上げていくのが本当に楽しくて。人前で発表するのは緊張したけど、観客の拍手を聞いたときは、すごく達成感がありました」
Y「素晴らしい経験ですね。Pさんは、創造性と協調性、そして目標に向かって努力する力をお持ちだったのですね。他には何かありますか?」
P「あとは……フリーター時代に、カフェで働いていた時のことです。お客様が困っていると、放っておけなくて、ついお節介を焼いちゃうんですけど(笑)。道案内をしたり、重い荷物を持ってあげたり。お客様が『ありがとう』って言ってくれると、すごく嬉しくて、また頑張ろうって思えたんです」
Pさんの口元に、自然と笑みがこぼれる。
Y「それは、Pさんのお人好しな優しさと面倒見の良さが表れていますね。Pさんは、人を喜ばせることがご自身の喜びになるタイプの方なんですね。そういった経験から、Pさんが得意なことや、情熱を傾けられること、また、心から喜びを感じられることは何だと思いますか?」
Yさんの問いかけに、Pさんは再び考え込んだ。
P「そうですね……昔から、何かを『創る』ことが好きでした。絵を描いたり、文章を書いたり。あと、誰かの役に立つこと、困っている人を手助けすることには、喜びを感じます」
Y「なるほど。Pさんは、クリエイティブな活動と他者貢献に喜びを感じるのですね。では、Pさんが、今の自分に『こうなれたら嬉しい』と思うことはありますか?」
P「はい。やっぱり、昔みたいに、もっと自分らしく、自信を持って生きていきたいです。自分の意見もちゃんと伝えられるようになりたいし、何より、自分を好きになりたい」
Pさんの言葉は、前回よりもずっと力強かった。
新しい自分へ、踏み出す一歩
Y「Pさん、素晴らしい目標ですね。では、その目標を達成するために、今日からできることを、いくつか一緒に考えてみましょう。例えば、Pさんが好きだった『創る』ことに、もう一度挑戦してみるのはどうでしょうか?絵でも文章でも、どんな小さなことでも構いません」
Pさんの顔が、ぱっと明るくなった。
P「絵、ですか……子どもの頃、よく描いていました。最近は全くですが」
Y「大丈夫ですよ。完璧を目指す必要はありません。大切なのは、Pさんが心から楽しいと思えることです。他者貢献に関しては、何か思いつくことはありますか?」
P「そうですね……最近、地域の高齢者サロンのボランティア募集を見たんです。おしゃべり相手とか、配膳の手伝いとか。でも、私なんかが役に立てるのかなって、踏み出せずにいました」
Pさんの言葉に、Yさんは優しく微笑んだ。
Y「Pさん、きっとPさんの優しい心と、お話を聞く力は、誰かの役に立つはずです。無理のない範囲で、小さな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?そして、もしまた不安な気持ちになったら、いつでもNカウンセリングオフィスにご連絡ください。Pさんのペースで、一緒に前に進んでいきましょう」
カウンセリング終了後、Pさんはパソコンの画面を閉じ、大きく息を吸い込んだ。胸の奥に、前回とは違う、確かな温かさがあった。Yさんとの会話を通して、Pさんは失っていたと思っていた自分の「らしさ」を、少しずつ取り戻せるような気がしたのだ。
確かな変化と小さな喜び
翌日、Pさんは、長年押入れにしまってあったスケッチブックと色鉛筆を取り出した。指先で滑らかな紙の感触を確かめ、懐かしい匂いをそっと嗅ぐ。そして、思い切って最初の線を引いた。最初はぎこちなかったが、描けば描くほど、心が穏やかになっていくのを感じた。
また別の日、Pさんは地域の高齢者サロンを訪れた。最初は緊張したけれど、持ち前の「困っている人を放っておけない」性格が顔を出す。お茶を淹れたり、話し相手になったりするうちに、お年寄りたちの笑顔がPさんの心に温かい光を灯した。 P「Pさん、また来てね。お話してくれると、元気が出るよ」
そんな言葉をもらうたびに、Pさんの胸には、くすぐったいような、それでいて確かな喜びが広がった。
私だけの輝き、未来への扉
ある日の夕食時、いつものように食卓を囲んでいると、長女がPさんの方を見て言った。
長女「ママ、最近なんか楽しそうだね。前よりいっぱい笑ってる」 Pさんははっとした。夫も隣で小さく頷いている。 P「そうかな?ふふ、そうかもしれないね」 Pさんは、自分の心の中に確かに変化が起きていることを実感した。それは、カウンセリングの中で思い出した、本来のPさんらしさだった。
Pさんは、窓の外に広がる夕焼けを眺めた。空には、茜色のグラデーションが広がり、今日一日の終わりを告げている。まるで、自分の人生が、少しずつ彩りを取り戻しているかのようだった。過去を否定するのではなく、今の自分を受け入れ、そして未来へと向かう勇気。それは、誰かに与えられるものではなく、自分自身の中から見つけ出す、私だけの輝きだった。
P「私なら、きっとできる。だって、私には、人を喜ばせるのが好きな『私』がいるんだから」
Pさんの心の中に、小さな、しかし確かな自己肯定感の光が灯っていた。それは、20年ぶりに見つけた、Pさんだけの輝きだった。そして、その光は、これからもPさんの道を明るく照らしていくことだろう。
この物語を終えるにあたり、Pさんの経験から私たちが何を学び、どのように日々の生活に活かせるのか、心理学的な視点も交えながら「編集後記」としてまとめました。どうぞご覧ください。
本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
コメント
コメントを投稿