【第3回】消費税60%!?日本でBIを阻む「3つの巨大な壁」とは

 


はじめに

 第1回と第2回を読んでみて、「ベーシックインカムって、思ったよりもいい話ばっかりじゃないんだ・・・」 そう思ったあなた、鋭い!どんなに素晴らしいアイデアにも、現実の壁はつきものです。今回は、もし日本でBIを導入するなら…と考えたときに立ちはだかる、「財源」「労働意欲」「インフレ」という、とんでもなく巨大な3つの壁について、超・具体的に考えてみましょう!


 壁① 財政の壁:「そのお金、どこから持ってくるの?」問題

 これが最大の難関です。仮に、日本の国民全員(約1億2500万人)に月7万円を配るとしましょう。さて、年間でいくらかかるでしょう?

チクタクチクタク… 答えは、約105兆円

…ひゃくごちょうえん(ドラえ〇んも真っ青ですね)!? 😱

 これって、日本の国の一般会計の年間予算(約112兆円)とほぼ同じなんです。つまり、国が1年間に使うお金をもう1年分、どこかから持ってこないといけない計算に…。無理ゲー感がすごいですが、一応、考えられている方法は2つあります。

【案1:税金をめっちゃ上げる】 この105兆円を、例えば消費税だけでまかなおうとすると…なんと、税率を今の10%から60%くらいにしないといけません!100円のジュースが160円に!…さすがに国民が黙っちゃいませんよね。

【案2:今の社会保障をなくす】 「年金とか生活保護とか、今の制度をやめて、全部BIにまとめちゃえばいいじゃん!」というアイデア。でも、これも大変。例えば、今もらっている年金が月15万円の人が、月7万円のBIに代わったら、大反対しますよね?それに、病気や障害で特別な支援が必要な人は、一律7万円だけじゃ足りません。

 結局、「みんなを助けられるくらいの金額にすると、お金が足りない。お金が足りるくらいの金額にすると、誰も助からない」という、究極のジレンマに陥ってしまうんです。


 壁② 労働意欲の壁:「みんな南の島で暮らしちゃう?」問題

 「毎月お金がもらえるなら、もう働かなくていいや〜」ってみんなが思ったら、社会は回りません。これもよくある心配事ですよね。

 でも、前回の社会実験の結果を思い出してください。フィンランドでもカナダでも、「みんなが一斉に働かなくなった」なんてことは起きませんでした

 なぜか? 答えはシンプル。月7万円のBIだけじゃ、そんなにゼイタクはできないからです(というか、都心だと家賃と光熱費すら7万円じゃ無理です💦)。もっと美味しいものを食べたい、旅行に行きたい、いい家に住みたい…と思ったら、やっぱり働き続ける人がほとんどでしょう。


【本当の課題はココ!】 BIがもたらす本当の変化は、「働くか、働かないか」の二択ではありません。「どんな働き方を選ぶか」が変わる、つまり、生まれや育ち、学歴や特定の能力に縛られず生きる上での選択肢が広がるんです。

 BIというセーフティネットがあれば、「生活のために、このブラック企業で我慢しなきゃ…」なんて必要はなくなります。みんな、もっと良い条件の仕事を探したり、学び直しをしたり、自分でビジネスを始めたりする余裕が生まれやすくなります。結果として、企業はよりよい環境作り、そこで働く人を大切にするという視点を意識する可能性が増えます。

 これは、労働者にとっては最高の話!でも、安い給料で人を雇ってきた企業にとっては大ピンチ。人手を確保するために給料を上げざるを得なくなり、その結果、商品の値段が上がるかもしません…?この「労働市場の大きな変化」にどう対応するかが、本当の課題なるのかもしれません。


 壁③ インフレの壁:「大根1本200円時代」の到来?問題

 みんながお金をもらって、一斉に買い物を始めたらどうなるでしょう?モノの値段がどんどん上がっていく、「インフレ」が起きるかもしれません。

「月7万円もらった!やったー!」 

「あれ?スーパーの大根が1本120円になってる…」

 「結局、前と生活レベル変わらないじゃん!」

これじゃ意味ないですよね(いや、冷静に考えると、今年の春先、キャベツが1000円とか、えのきが198円とかありましたし、米もまだ昔の倍くらいの価格ですけどね💦)。

【本当に怖いのは「局所的インフレ」】 ただ、専門家の分析によると、心配すべきは世の中全体のインフレよりも、特定のモノの値段が急上昇することだと言われています。その代表格が、「家賃」です。

 特に東京のような大都市では、土地に限りがあるので、急にアパートやマンションを増やすことはできません。そんな中で、みんなの「家賃を払う能力」だけがBIでアップしたら…?大家さんは「しめしめ」と家賃を値上げするかもしれません。

 結果、BIで増えたお金が、私たちの生活を豊かにするのではなく、そのまま大家さんのポケットに吸い込まれてしまう…なんて最悪のシナリオも考えられるんです。

 BIを導入するなら、こうした特定の分野の値上がりを防ぐための、家賃コントロールみたいな政策もセットで考えないと、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。

 さて、3つの巨大な壁、いかがでしたか?BI実現への道は、本当に一筋縄ではいかないことがお分かりいただけたかと思います。 次回はいよいよ最終回。「じゃあ、BIはただの夢物語なの?」という問いに対してもう少し考えつつ、私たちの社会が目指すべき未来の形を探っていきましょう。


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テーマ:『プロスペクト理論』と労働意欲

 「BIをもらっても人は働くのか?」という問いは、行動経済学の『プロスペクト理論』(心理学でいうところの認知バイアスの一種)で説明できます。この理論は、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらが提唱したもので、「人は損失を利益の2倍以上重く感じる損失回避性)」という人間の不合理な意思決定のクセを明らかにしました。

 これをBIに当てはめてみましょう。 多くの人は、BIが導入されても、それを「基準点(ゼロ)」として認識します。つまり、BIのある状態が当たり前になるのです。

 そして、「もっと良い生活をしたい」という欲求から働き始めると、BIに加えて給料という「利益(ゲイン)」が手に入ります。これはもちろん嬉しいことです。

 しかし、もし働くのをやめてしまうと、今まで得られていた給料を失うことになります。これは「損失(ロス)」として認識され、プロスペクト理論によれば、利益を得たときの喜びの2倍以上の心理的苦痛を感じるのです

 つまり、一度働き始めてBI+給料の生活水準に慣れてしまうと、そこから「労働収入を失う」という損失を避けるために、働き続ける強い※インセンティブが生まれると考えられます。

 「BIで働かなくなる」という懸念は、BIを純粋な「利益」として捉えた単純な見方です。しかし、人間の心理はもっと複雑で、「得すること」よりも「損しないこと」を強く優先するのです。この「損失回避性」が、BIがあっても社会の労働力が維持される心理的なメカニズムの一つと言えるでしょう(もっとも、今の物価で月に100万円くらいBIがあったらわかりませんが・・・(笑))。


※インセンティブとモチベーションとの違い

インセンティブとモチベーションは似ていますが、異なる概念です。

  • インセンティブ外部から与えられる「刺激」や「報酬」のこと。特定の行動を「させる」ための働きかけ。

  • モチベーション内側から湧き出てくる「意欲」や「やる気」のこと。自発的に行動するための原動力。


「本記事は、公開されている情報や報告書を参考にしつつも、筆者の個人的な見解や解釈を交えて構成しています。査読を受けた学術論文ではありませんので、学術的なエビデンスとしての利用はお控えいただけますようお願いいたします。」

【監修:Nカウンセリングオフィス

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