買い物依存ー東京の夜に飲み込まれる光と影【前編】
華やかな都会の裏側で
東京のきらびやかな夜に紛れて、玲奈さんは毎日を駆け抜けていました。昼間は大手企業のオフィスで資料作成に追われるOLとして、周囲の期待に応えようと必死に笑顔を作ります。そして夜は、新宿のネオンが輝くガールズバーで、また別の「玲奈さん」を演じ、華やかな笑顔を振りまくキャストに変わるのです。ONとOFFのギャップが激しい生活。どちらの顔も玲奈さんにとっては大切な日常…のはずでした。
彼女は27歳。地方出身で、学生時代から漠然と「東京でキラキラした生活を送りたい」という憧れを抱いていました。大手企業に就職し、おしゃれなオフィス街でランチを楽しみ、夜は友人とワイングラスを傾ける。そんな夢に見た生活は、確かに手に入れたはずでした。しかし、日々の仕事は想像以上に神経をすり減らすもので、人間関係の複雑さ、常に求められる完璧さ、そして漠然とした将来への不安が、玲奈さんの心を蝕んでいきました。
満たされない心を埋める買い物
そんな玲奈さんにとって、唯一の心の拠り所、それが「買い物」でした。お気に入りのブランドの新作チェック。仕事のストレスも、職場の人間関係で感じた小さな疎外感も、ショッピングサイトで気になるアイテムを見つけたり、実際に店舗で手に取ったりする時間だけは忘れられます。試着室で鏡に映る自分は、まるで別人のように輝いて見えました。「これを着たら、もっと素敵な自分になれるはず」「きっと、周りの人も私を認めてくれる」。そんな淡い期待と高揚感が、玲奈さんを次々と新しいアイテムへと誘い込みました。気がつけば、クローゼットには一度も袖を通していない洋服や、値札がぶら下がったままのアクセサリーが山積み。毎月のカードの支払いは家計を圧迫し、貯金は一向に増えません。
玲奈さん:「また買っちゃった…」
カードの請求明細を見るたびに、自己嫌悪に陥ります。ため息をこぼし、思わず顔を覆ってしまうことも一度や二度ではありませんでした。頭では「もうやめないと」と分かっているのに、買い物はまるで麻薬のように、玲奈さんの心を囚えて離しません。衝動を抑えきれず、気がつけば決済ボタンを押している。そんな自分に嫌気がさし、夜中に一人、そっと涙を流す日も少なくありませんでした。
もう一つの顔、ガールズバーでの葛藤
「このままじゃいけない」そう強く思うようになったのは、OLの仕事とガールズバーの掛け持ちが、心身ともに玲奈さんを蝕み始めたからです。ガールズバーで働き始めたのは、今から約2年前のことでした。入社3年目を迎え、仕事にも少し慣れてきた頃、会社の先輩たちの間で「若いうちにしかできない経験だから」と、副業でガールズバーやキャバクラで働く話が話題に上がることがありました。玲奈さんは当時、会社での評価に伸び悩み、また一人暮らしの家計も少し厳しく感じていました。漠然とした焦りを感じていた矢先、SNSで偶然目にしたガールズバーの求人広告が目に留まります。「高収入」「未経験者歓迎」「華やかな世界」。どれも今の自分に足りないものを埋めてくれるような魅力的な言葉に映りました。
最初は軽い気持ちでした。「週末だけ」「ちょっとしたお小遣い稼ぎに」。そう思っていたのに、いざ働き始めると、玲奈さんは予想以上にこの仕事にのめり込んでいきました。お客さんに「玲奈ちゃんがいると元気が出るよ」「また会いたいな」という言葉をかけてもらうと、その瞬間だけは自分が誰かに必要とされているような温かい気持ちになれたのです。会社では決して味わえない、直接的な「承認」がそこにはありました。まるで、自分という存在が、ここでなら輝けるような錯覚に陥ったのです。しかし、そんな高揚感も束の間。家に帰るとどっと疲れが押し寄せ、メイクを落とした後の鏡には、憔悴しきった自分の顔がありました。そして、得体の知れない虚無感に襲われる日々が続いていたのです。
玲奈さん:「私は一体、何のために頑張っているんだろう?」
そんな疑問が、玲奈さんの頭の中を常に巡っていました。昼は上司の顔色を伺い、夜はお客様の言葉に耳を傾ける。本当の自分はどこにもなく、まるで仮面を被って生きているような感覚。心は常に張り詰め、休まる暇がありませんでした。
カウンセリングとの出会い
買い物依存とガールズバー勤務との向き合いに疲弊しきっていたある日、玲奈さんはスマートフォンの広告でオンラインカウンセリングの存在を知ります。見慣れない広告でしたが、「自宅から気軽に相談できる」というフレーズに、玲奈さんの心は強く惹かれました。誰にも言えない悩みを、誰にも知られずに打ち明けられる。その手軽さに、藁にもすがる思いでNカウンセリングオフィスに申し込んでみました。
カウンセリング初日。緊張と不安が入り混じる中、画面越しに現れたのは、落ち着いた雰囲気の男性カウンセラー、Yさんでした。柔らかな声と、優しく微笑むYさんの表情に、玲奈さんの張り詰めていた心が少しずつ解き放たれていくのを感じました。
Yさん:「玲奈さん、今日はどんなお話でも聞かせてくださいね。どんなことでも、話したいことからで大丈夫ですよ。」
Yさんの穏やかな声に促され、玲奈さんはポツリポツリと話し始めました。最初は言葉を選びながら、慎重に。しかし、Yさんがただ静かに耳を傾けてくれることで、玲奈さんは少しずつ心を解き放っていきました。
玲奈さん:「私…実は、買い物依存症なんです。それから、OLの仕事とガールズバーの掛け持ちが、本当に心も体も辛くて…。もう、どうしたらいいか分からなくて、本当に苦しくて…」
堰を切ったように涙が溢れ出しました。これまで誰にも打ち明けられなかった心の叫びが、言葉となってこぼれ落ちていきます。Yさんはそんな玲奈さんの話を、ただ静かに、慈しむように聞いてくれました。そして、いくつか質問を投げかけました。
Yさん:「Lさんが初めて高価な買い物をしたときのことを覚えていますか?」
「どんな時に買い物をしたい衝動に駆られますか?」
「ガールズバーで働き始めた経緯を教えていただけますか?
その時、Lさんはどんな気持ちでしたか?」
Yさんの問いかけは、玲奈さんがこれまで目を背けてきた心の奥底に優しく触れるものでした。玲奈さんは記憶を辿り、言葉を紡ぎ始めました。初めて高価な買い物をしたのは、高校生のとき。親友との関係がうまくいかなくなり、寂しさを感じていた時期でした。クラスで浮いているような孤独感、誰にも理解されないもどかしさ。その時、たまたま雑誌で見かけたブランド物のバッグが、どうしても欲しくなったのです。お小遣いをはたいて手に入れたときの高揚感、それを手にしている時の満たされた感覚は、今でも鮮明に思い出せました。あのバッグは、寂しかった自分の心を一時的に満たしてくれる「何か」だったのかもしれないと、玲奈さんは漠然と感じ始めていました。
玲奈さんが抱える買い物依存とガールズバー勤務の背景には、一体何が隠されているのでしょうか? そして、Yさんとのカウンセリングによって玲奈さんは長年の苦しみから解放され、本当の自分を取り戻すことができるのでしょうか? 彼女の心の旅は、まだ始まったばかりです。気になる方は後編へ♬
※本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
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