アダルトチルドレンの克服を目指して—Aさんの物語【後編】


カウンセリング、心の解放へ

「このままでは、私はいつか壊れてしまうかもしれない。」

そう感じたAさんは、思い切ってオンラインカウンセリングを受けることを決意します。

 

Aさんはノートパソコンの画面をじっと見つめていました。オンラインカウンセリングはもちろん、カウンセリングを受けること自体が初めてで、画面越しとはいえ誰かに自分の悩みを話すことに緊張していました。 カウンセリング開始時刻になったので、ゆっくりとミュートを解除すると、カウンセラーの柔らかな声がスピーカーから流れました。

 

Yカウンセラー: 「こんにちは、Aさん。今日はお話しできて嬉しいです。リラックスして、お好きなペースで話してくださいね。」

 

Aさん: 「……よろしくお願いします。正直、少し緊張しています。」

 

Yカウンセラー: 「それは自然なことですよ。オンラインとはいえ初めての場所で、初めてお話しするのですから。」

 

Aさん: 「そうですね。でも、何から話せばいいのか分からなくて……。」

 

Yカウンセラー: 「焦らなくても大丈夫ですよ。最近、どんなことが一番しんどいと感じますか?」

 

Aさん: 「(少し考えて)……仕事ですね。毎日やることが多くて、自分のミスが許されないような気がして……。職場ではいつも完璧にしないといけないって思ってしまいます。」

  

Yカウンセラー: 「完璧にしなきゃいけないと思ってしまう……それは、すごくプレッシャーが大きいですね。その感覚は、いつから感じていましたか?」

 

Aさん:「……思い返すと、子どものころからかもしれません。親が厳しくて、期待に応えないと認めてもらえない気がしていました。」

 

Yカウンセラー: 「ずっと長い間、『期待に応えなきゃ』という思いの中で頑張ってこられたんですね。その思いが、今もAさんを苦しめているのかもしれません。」


 Aさんは、少し驚いたようにパソコンの画面を見つめた。誰かに自分の気持ちを言葉にしてもらうことが、これほど心を揺さぶるとは思っていなかった。

 

Aさん: 「そうかもしれません……。でも、それって仕方のないことですよね?みんな、頑張って生きているのだから……。」

 

Yカウンセラー: 「確かに、頑張ることは大切です。しかし、Aさんの中で『頑張る』と『頑張り続けなきゃいけない』は、同じ意味でしょうか?そこに何か違いを感じますか?」

Aさん: 「……そう言われてみれば……。頑張ることは、目標に向かって努力する前向きな気持ちだけど、『頑張り続けなきゃいけない』は、何かから逃れるために無理をしているような……。もし気を抜いたら、誰かに迷惑をかけるかもしれないし……。そう思うと怖くて。」

 

Yカウンセラー: 「『迷惑をかけるのが怖い』……それは、Aさんが何かを大切にしていることの裏返しでもありますね。その『頑張らないと愛されない』と強く思うようになった背景には、どんな出来事がありましたか?具体的な場面を思い出せますか?」

 

 Aさんは、少し考えた後、ゆっくりと深呼吸した。

 

Aさん「……テストで悪い点を取った時です。親がすごく落胆して、『もっと頑張りなさい』って言われて……あの時、私は頑張らないと愛されないって、強く感じたんだと思います。」


Yカウンセラー: 「その時の気持ち、今も覚えていますか?」

 

Aさん: (小さく頷く)「はい。すごく悲しかったです。悔しくて、それからもっと勉強を頑張るようになりました。でも、いつの間にか……頑張ることが習慣になって、休むことが怖くなったんだと思います。」

 

Yカウンセラー「その経験が、今のAさんの『頑張り続けなきゃいけない』という気持ちに繋がっているのかもしれませんね。では、今のAさんにとって、本当に大切なことは何でしょうか? Aさん自身が、これからどう生きたいと感じますか?」

 

 Aさんの目に、じんわりと涙が溜まりました。カウンセラーの問いかけが、心の奥底に沈んでいた、本当の願いを浮き上がらせるように感じました。

 

Aさん: ……本当は、誰かのために完璧でいることよりも、もっと楽になりたい。自分を許して、安心して生きたいです。

 

Yカウンセラー: 「Aさんの中で、その感覚がしっくりとくるのですね。自分を許して楽になりたい、安心して生きたいって思えることは素晴らしいことだと思います。これから少しずつ、Aさんが『頑張らなくても大丈夫』と心から思えるようになるための、Aさんらしいペースを見つけていきましょう。」

 

 Aさんは、涙を拭いながら、小さく頷きました。画面越しではあるけれど、今まで感じたことのない安心感が心に広がっていました。自分の心が本当に望む方向へ、ようやく一歩を踏み出せる予感がしました。

回復への希望

 Aさんのように過去の環境によって形成された思考の癖は、気付かなければ変えることが難しいものですが、適切なサポートがあれば、時間はかかりますが少しずつ生きやすさを取り戻すことができます。

 

「私も変われるかもしれない」――そんな希望を持つことが、回復への第一歩です。心理カウンセリングは、過去を癒し、これからの人生をより良いものにするための有効な手段となるでしょう。

 

Aさんの物語・後編を終えて

 Aさんの物語・後編をお読みいただき、ありがとうございます。

 完璧を求め続けた人生から、カウンセリングを通じて「頑張らなくても大丈夫」と心から思えるようになりたいと思い始めたAさん。彼女の涙と、その後に訪れた安心感に、何かを感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 なぜAさんはそこまで自分を追い詰めてしまったのか? そして、彼女の物語が、今この文章を読んでいるあなた自身の生きづらさとどう繋がっているのか?

 次にお届けする編集後記では、Aさんの経験をより深く理解するために、アダルトチルドレンが抱える心理的なメカニズムを解説します。そして、もしあなたが同じような感情を抱えているなら、そこから抜け出すための具体的なヒントとメッセージをお伝えします。

 Aさんの物語は、決して他人事ではありません。 彼女の経験を通して、あなた自身の心の声にも耳を傾けてみませんか?


本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。


監修:Nカウンセリングオフィス

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