ADHDとともに歩むCさんの物語【後編】

 

ADHDとともに歩むCさんの物語【後編】

 前編では、社会人としての日々に悩み、自己嫌悪に陥っていたCさんが、友人の勧めでオンラインカウンセリングと出会うまでが描かれました。初めてのカウンセリングで、画面越しに対面したCさんとカウンセラー。不安と期待が入り混じる中、Cさんの心に大きな変化が訪れることになります。彼女がずっと「自分のせいだ」と思い続けてきた困難は、一体何だったのでしょうか? そして、その真実を知ることで、Cさんの人生はどのように変わっていくのでしょうか——。

画面越しに明かされる「特性」という可能性

カウンセラー(以下、Y):「こんにちは、Cさん。今日は来てくださってありがとうございます。」

Cさん:「……よろしくお願いします。」


少しぎこちない。画面越しのやりとりに、どこか距離を感じてしまいます。しかし、カウンセラーはゆっくりと話し始めました。


Y:「最近、お仕事で悩んでいると伺いました。どんなことが特に大変ですか?」

Cさん:「……集中できなくて、気づいたら違うことをしてしまったり…スケジュール管理も苦手で…。ミスばかりで、自分がダメな気がします。」


画面の向こうで、カウンセラーは静かに頷きました。

Y:「それは、とても苦しいですよね。ミスをするたびに、ご自身を責めてしまうことが多いですか?」

Cさんははっと顔を上げました。

Cさん:「……そうですね。『普通にできるはずなのに』って、いつも思っていました。でも、できないんです。」


 その言葉が、画面越しにこぼれた瞬間。Cさんは、自分がずっと抱えていた想いを、初めて誰かに伝えた気がしました。


Y:「『普通にできるはずなのに』というお気持ち、とてもよく分かります。Cさんがこれまで、その『できない』ことを『できるようになる』ために、どんな工夫をしてこられましたか?」


Cさん:「工夫…ですか。えっと、メモを取ったり、 ToDoリストを作ったり…あと、先輩に教えてもらった通りにやってみようと、何度も見返したりもしました。でも、結局、他のことが気になって集中できなかったり、締め切りをうっかり忘れてしまったりして…。」


 Cさんは、これまで自分がどれだけ一人で抱え込み、解決しようと奮闘してきたかを思い出し、胸を衝かれるような感覚を覚えました。


Y:「そうでしたか。本当にたくさんの努力をされてきたのですね。その頑張りは素晴らしいことです。ただ、Cさんのように、特定の『工夫』をしても、なかなか思うようにいかないと感じる方がいらっしゃいます。もしかしたら、それはCさんの努力不足ではなく、何か別の要因が関係している可能性も考えられますよ。」


Cさん:「別の要因…?」

 Cさんは、Yさんの言葉に思考が止まり、はっと息を呑みました。「自分のせいではない」という可能性が、初めて頭をよぎったのです。


Y:「はい。例えば、物事への集中力や、複数の情報を同時に処理する能力、あるいは時間の感覚といった部分に、人それぞれ『特性』や『得意・不得意』があるんです。もしそれが『特性』によるものだとしたら、努力の方向性を少し変えるだけで、もっと楽になる可能性があるんです。」


Cさん:「努力の方向性…。」


 その言葉を聞いた瞬間、Cさんの目に涙が滲みました。画面を通じてでも、胸の奥に静かに響くものがありました。


自分を受け入れ、成長していく日々

 カウンセリングを続ける中で、Cさんは少しずつ「自分を責める必要はないのかもしれない」と思い始めました。Yさんの提案で、スケジュールアプリを導入したり、タスクを細かく分ける習慣を身につけてみることにしました。


 日々の中で、少しずつ変化が生まれたのです。以前よりも仕事がスムーズになり、完璧でなくても「自分なりに前に進める」と思えるようになりました。


ある日、Cさんはふと心が晴れるような感覚に包まれます。

Cさん:「ずっと『普通にならなきゃ』って思ってた。でも、私は私のやり方で、ちゃんと進める。」


 それは、画面越しのカウンセリングがくれた、かけがえのない気づきでした。


新たな未来へ、自分らしい歩みで

 数ヶ月後、Cさんは会社のプロジェクトに関わる機会を得ました。以前なら「無理」と思っていた仕事も、自分の工夫を活かして取り組めるようになっていたのです。

Cさん:「私は私のやり方で、前に進んでいけばいいんだ。」

そう思えた瞬間、Cさんは今までの自分がいかに努力してきたかを実感しました。


 そして、彼女は今も少しずつ変わっています。以前のように、小さなミスで自己嫌悪に陥ることは減り、むしろ「次はこうしてみよう」と前向きに考えられるようになったのです。通勤電車の中でスマホを見つめるその目には、以前のような不安の色はなく、代わりに穏やかな光が宿っていました。


 会社のエレベーターに乗り込むCさんの背筋は、以前よりも少しだけ伸びています。完璧ではないけれど、自分に合ったペースで、自分らしく歩んでいくこと。その選択が、彼女に確かな自信を与えていました。


Cさん:「大丈夫、私ならできる。」


その日、Cさんは、新しい自分として、新たな一歩を踏み出しました。


 

心理学について学べる編集後記へのお誘い

 Cさんの物語はここで終わりですが、彼女の経験から得られる気づきは、私たちの日常生活にも深く関わっています。この物語を読んで感じたことや、ご自身の経験と重ね合わせた方もいらっしゃるかもしれません。

 この後には、Cさんの物語に隠された心理学的な側面を掘り下げ、ADHDとの向き合い方について、より具体的なアドバイスをまとめた「編集後記」が続きます。 彼女がどのようにして困難を乗り越え、自己肯定感を育んでいったのか。そして、もしあなたが同じような悩みを抱えているなら、どのような選択肢があるのか。ぜひ続けてお読みいただき、あなたの日常に役立つヒントを見つけてみてください。


※本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。


監修:Nカウンセリングオフィス

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