「私」を取り戻すまで:双極性障害と向き合うKさんの休職から再起への物語【前編】
理想の営業マン、Kさんの輝かしい日常
大手家電量販店の活気あふれる一角。ひときわ明るい笑顔で顧客と向き合うのは、営業部8年目のKさん、32歳だ。身長は平均より少し高く、学生時代にラグビーで鍛えられた身体は、スーツの上からでもその面影を感じさせる。短い髪から覗く瞳は常に穏やかな光を宿し、会話の端々には人を惹きつけるユーモアが溢れている。
Kさん:「いらっしゃいませ!今日は何をお探しですか?」
流暢な英語で外国人顧客の質問にも淀みなく答え、Kさんの周りには常に笑顔の輪が広がっていた。彼の対応は丁寧で、製品知識も豊富。顧客からの信頼は絶大で、店舗の売上にも大きく貢献している。同期や後輩からも「Kさんみたいになりたい」と慕われ、社内での評価も非常に高かった。彼はまさに、誰もが羨む理想の営業マンだった。
突然の異変、そして診断名
しかし、そんな輝かしいKさんにも、深い闇があった。入社して3年目の冬、それは突然訪れた。連日続く残業、達成困難なノルマ、上司からの厳しい叱責。心身の疲労はピークに達し、ある朝、身体が全く動かなくなった。診断名は双極性障害。極度の躁状態と、深い鬱状態を繰り返す病だった。
Kさん:「なんで俺がこんな病気に…」
信じたくなかった。それまでのKさんの人生は、努力すれば報われる、頑張れば成果が出るという確固たる信念のもとに築かれていた。それが、精神疾患という、自分の意思ではどうにもならない壁にぶつかったのだ。長期間の休職を余儀なくされ、Kさんの心は深い絶望の淵に沈んだ。
親友との断絶、そして拭えない後悔
休職期間中、Kさんは自宅に引きこもり、誰とも会おうとしなかった。友人からの連絡にも返事をせず、かつての明るさは影を潜めた。特に辛かったのは、同期で一番の親友であり、良きライバルでもあったTからの連絡を避けることだった。TはKさんが休職してからも、心配して度々連絡をくれた。しかし、Kさんは病気のことを知られるのが怖くて、連絡を無視し続けた。
Kさん:「俺はもう、昔の俺じゃないんだ…」
復職後も、Kさんの心は安らぐことはなかった。医師から処方された薬は欠かさず飲む。睡眠時間は必ず確保する。無理な残業は避ける。それらは全て、再びあの苦しい時期に戻らないための、大切なルールだった。周囲からは「完全に戻ったね!」と声をかけられるたびに、Kさんの胸には罪悪感と、いつバレるかわからないという恐怖が募った。笑顔の裏で、彼は常に心のバランスを保つことに神経を尖らせていたのだ。
押し寄せる不安と「弱さ」への抵抗
営業という仕事は、予期せぬストレスの宝庫だ。目標売上へのプレッシャー、理不尽な顧客からのクレーム対応、そして時に上司からの容赦ない叱責……そんな時、Kさんの心はジェットコースターのように乱高下した。まるで、感情のスイッチが壊れてしまったかのように、極度の興奮状態に陥ったり、深い海の底に沈んでしまったりする。
Kさん:「また、あの時みたいになったらどうしよう……」
一人になると、不安が胸を締め付ける。薬を飲む手は、ほんの少しだけ震える。あの休職期間の地獄のような日々が、鮮明に脳裏に蘇る。特に、親友Tを遠ざけてしまったことへの後悔が、Kさんを深く苛んでいた。
そんなある日、Kさんは偶然、インターネットの広告でオンラインカウンセリングオフィス「Nカウンセリングオフィス」を見つけた。「双極性障害と生きる」というキーワードが、Kさんの目に止まったのだ。
Kさん:「オンラインなら、誰にも会わずに話せるかも……」
藁にもすがる思いだった。しかし、Kさんの心にはもう一つの抵抗があった。それは、弱さを見せることへの恐怖だった。ずっと「強いKさん」でいなければならない、という強迫観念に囚われていた。カウンセリングを受けることは、自分の弱さを認めることだと感じていたのだ。
それでも、現状を変えたいという強い思いが、Kさんを突き動かした。少しの勇気を出し、Kさんは「Nカウンセリングオフィス」の予約ページを開いた。
この時、Kさんはまだ知る由もなかった。この出会いが、彼の人生に新たな光を灯し、そして、彼が最も避けてきた人間関係の再構築へと導いていくことを…。
後編では、カウンセラーとの出会いによってKさんの心にどのような変化が訪れるのか、そして彼が最も恐れていた「人間関係」、特に親友Tとの関係がどうなっていくのか、その感動の展開をお届けします。
※本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
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