対話が拓く未来:Nさんの物語と共創のヒント【後編】
カウンセリングの温かい光
指定した時間、パソコンの画面に現れたのは、何となくどこかで会ったことがあるような男性でした。温かい眼差しでNさんを迎え入れてくれます。
Yさん「Nさん、こんにちは。NカウンセリングオフィスのYです。どんなことでも、感じたままに話していただけたらと思います」
Nさんは最初、少し緊張していました。しかし、Yさんの落ち着いた声と、決して結論を急かさない親しみやすい雰囲気に、少しずつ心がほぐれていくのを感じます。Nさんは、これまでの経緯を包み隠さずYさんに話し始めました。学生生活課での仕事のこと、新しいイベント企画に込めた思い、地域連携室のAさんとの対立、積み重なるストレス、そして何よりも自分自身の無力感について、堰を切ったように語りました。
多様な声を受け止める対話
Nさん「……だから、私、どうしたらいいかわからなくて。この企画、諦めるべきなんでしょうか……。こんなに情熱を注いだのに、もう心が折れそうです」
Nさんの言葉は、次第に涙声になっていきました。YさんはNさんの話をじっと聞いていました。時折、ゆっくりと相槌を打ちながら、Nさんの気持ちに寄り添ってくれます。Nさんが言葉に詰まると、Yさんは無理に話させようとせず、ただ静かにNさんの沈黙を受け止めました。その包み込むような温かさに、Nさんの心は救われる思いでした。YさんはNさんの苦しみを深く理解し、労ってくれる存在だとNさんは感じました。
Yさん「Nさん、たくさん悩んで、苦しんでいらっしゃったんですね。その情熱が、組織の壁にぶつかって、とても辛かったでしょう。よく頑張って、ここまで一人でやってきましたね。Aさんの言葉も、Nさんの心の奥で響いているのですね。その言葉も、Nさんの正直な気持ちも、全てここにあります。」
Yさんの言葉が、Nさんの心を温かく包み込みました。まるで、凍り付いていた心がゆっくりと溶けていくような感覚です。
秘められた強みの発見
カウンセリングが進む中で、Yさんは不意にNさんの学生時代の話を尋ねました。
Yさん「Nさん、少しお話が変わるのですが、Nさんが学生時代に所属していたボランティアサークルのお話をもう少し詳しく聞かせてもらってもいいですか?どんな活動をされていたのですか?」
Nさんは、最初は戸惑いながらも、ボランティアサークルでの活動がいかに充実していたか、どんな困難を仲間たちと乗り越えてきたかを語り始めました。地域のお祭りでの突発的なトラブル、子ども向け学習支援での予想外の反応、予算の壁……。それらをどう工夫し、周囲を巻き込み、最終的に成功させてきたのか。Nさんが熱く語り終えると、Yさんはにこやかに言いました。
Yさん「Nさんが熱く語ってくださったボランティアサークルでの経験、本当に素晴らしいですね。困難な状況に直面しても、仲間と協力し、様々な工夫で乗り越えてこられた。その時、Nさんの中で、どんな力が湧いてきたと感じましたか?」
Yさんの問いかけに、Nさんはハッとしました。確かに、これまでも困難な状況を乗り越えてきた経験はたくさんありました。しかし、今のNさんは、Aさんの言葉や職場の壁にばかり目を向けて、自分の持つ力を見失っていたのです。Nさんは少し考え、口を開きました。
Nさん「……そうですね。あの時も、最初は『無理だ』って言われたんですけど、私、周りの人にすごく助けられたんです。諦めずに色々な人に声をかけたり、意見を聞いたりしているうちに、みんなが協力してくれるようになって。気が付いたら、人を巻き込む力と、どんなに大変でも粘り強くやり抜く力が、自分にはあるんだって思えるようになりました。今の企画でも、きっとその力が活かせるはず……!」
Nさんの言葉は、Nさん自身の中から湧き出てきたものでした。カウンセリングの中でNさんは、自分自身の中に眠っていた自信を揺り起こしたのです。
「ラスボス」の「声」を聞く
Nさん「でも、どうしたら……。Aさんは本当に頑固で、何を言っても動じないんです」
Yさん「Nさん、Aさんの言葉を真剣に受け止めるNさんの真面目さは、とても素晴らしいことです。でも、少しだけ視点を変えてみませんか?Aさんは、大学という組織を守る立場から、リスクを懸念しているのかもしれません。NさんがもしAさんの立場だったら、どんな説明をしてくれたら、安心できますか?Aさんの『前例がない』という声の裏には、どんな思いや心配があると思いますか?」
Yさんの問いかけに、Nさんは深く考え込みました。Aさんの冷たい言葉の裏に隠された意図を、真剣に探ろうとします。やがて、Nさんの表情が変わり、何か閃いたように口を開きました。
Nさん「……そっか!Aさんは『前例がないからリスクが高い』って言ってる。だったら、そのリスクを具体的に減らす方法を示せばいいんだ!例えば、他大学の成功事例とか、学生アンケートで『こんなイベントがやりたい』っていう声を集めて、需要があることを見せるとか!でも、Aさん、頑固だしなぁ……」
Nさんが弱音を吐くと、Yさんはクスッと笑いました。
Yさん「ふふ、Nさん、もしかしてAさんのこと、『ラスボス』だと思ってませんか?」
Yさんの意外な言葉に、Nさんは思わず吹き出してしまいました。それまでNさんの心を縛り付けていたAさんの存在が、コミカルな「ラスボス」という言葉で表現されたことで、Nさんの緊張がほぐれました。
Nさん「ラスボス!あはは!確かに、そんな感じです!毎回会議でAさんの顔を見ると、なんかHPが削られる気がして……」
Nさんは笑いながら、Aさんの頑固な表情を真似てみせました。Yさんもつられて笑います。
新しい意味を与える「対話戦略」
Yさん「なるほど。では、そのラスボスを倒すための攻略法を一緒に考えていきましょうか。Nさんは、Aさんのどんなところを一番『ラスボス』だと感じるんですか?」
Nさん「えーと、まず、会議での『前例がない』って言葉ですね。あれを聞くと、もう何も言い返せなくなっちゃって。あと、何を言っても表情が変わらないところも……」
Yさん「なるほど。『前例がない』は、確かに手強い呪文ですね。では、その呪文を打ち破るには、どんな「カウンター魔法」がありそうですか?Aさんの懸念を単なる障害ではなく、企画をより安全で強固にするための「建設的な声」として捉え直すことはできませんか?」
Yさんの言葉に、Nさんは深く考え込みました。Aさんの厳しい指摘を、自分の企画をより良くするためのヒントとして受け止める視点。その視点から、具体的な策を模索します。
Nさん(心の中で)「Aさんの経験と知識は、大学にとってなくてはならないもの。それを味方につけるにはどうすればいいんだろう?Aさんの視点に立って、大学を守る立場からの不安を解消するような説明をすればいいんだ!」
そ
して、Nさんは確信を得たように顔を上げました。
Nさん「わかりました!Aさんの不安を解消できるような具体的なデータを集めます。他大学での成功事例とか、学生アンケートで『こんなイベントがやりたい』っていう声を集めて、学生の意欲を数字で見せます!あとは、地域の企業に協賛をお願いして、大学の金銭的な負担を減らすこともできます!そして、Aさんにも『一緒に新しい前例を作りたいんです!』って、大学の未来のために協力をお願いしてみます!Aさんのご意見や懸念を、ぜひこの企画に反映させて、より良いものにしていきたいです!」
Yさん「素晴らしいですね!Nさんは、もうすでにラスボス攻略のヒントをたくさん持っていたんですね。そして、Nさんがこれまで培ってきた『人を巻き込む力』で、Aさんにも協力を仰いでみませんか?Aさんの中にも、きっとNさんの情熱に応えてくれる部分があるはずです。Aさんの視点や懸念を、一つの声として尊重し、対話のテーブルに乗せてみることから始めませんか?」
Nさんの心には、Yさんの言葉が深く響きました。Yさんは、最後にこんな言葉をくれました。
Yさん「Nさん、どんなに強いラスボスにも、必ず弱点があります。そして、Nさんの最大の武器は、その明るさと、諦めない情熱です。Nさんのその武器を信じて、もう一度、Aさんに挑んでみましょう」
新しい一歩
オンラインカウンセリングから数日後、Nさんは地域連携室のAさんに、改めてイベント企画の説明に訪れました。今回は、Yさんとの対話で得たヒントを元に、リスクヘッジのための具体的な対策案や、学生の主体性を引き出すための詳細な計画書を準備しました。そして、何よりもNさんの「このイベントを成功させたい」という熱い思いを、改めてAさんに伝えました。NさんはYさんの言葉を胸に、Aさんの懸念に一つひとつ丁寧に向き合い、具体的な数字や他大学の成功事例を交えながら、企画の安全性と実現可能性を力説しました。
Nさん「Aさん、この企画は、私一人では成功させられません。Aさんの長年の経験と知識が、私たちには不可欠なんです。ぜひ、私たち学生生活課と一緒に、このイベントを成功させませんか?大学の新しい歴史を、Aさんと一緒に作りたいんです!Aさんのご意見や懸念を、ぜひこの企画に反映させて、より良いものにしていきたいと考えています。」
Nさんの真剣な眼差しに、Aさんの表情が少しずつ和らいでいくのがNさんにはわかりました。Aさんは、Nさんの企画書をじっと見つめ、やがて口を開きました。
Aさん「……Nさんの情熱は、よく分かった。そこまでリスクヘッジを考え、具体的なデータも揃えているのなら、こちらも協力しよう。ただし、いくつか条件がある。安全管理体制の強化、広報連携の徹底、そして学生の責任体制の明確化だ」
Aさんの言葉に、Nさんの心は大きく震えました。それは、Nさんにとって、希望の光でした。Yさんの言う通り、Aさんもまた、大学のために尽力する一人の職員だったのです。Nさんは、Aさんの懸念に真摯に向き合い、具体的な解決策を提示し、さらに「一緒に新しい前例を作りたい」という協働の姿勢を示したことで、Aさんの心を動かすことに成功したのです。これが、対立を乗り越え、協力関係を築くための鍵でした。
Nさん「ありがとうございます!どんな条件でも、前向きに検討させていただきます!」
Nさんの目に、熱いものがこみ上げてきました。
その後、NさんはAさんと何度も話し合いを重ねました。時には、意見の食い違いから、再び衝突しそうになることもありました。しかし、NさんはYさんの言葉を思い出し、Aさんの意見を一つの大切な「声」として受け止め、対話の場を「開かれた状態」に保つよう努めました。Aさんの厳しい指摘は、Nさんの企画をより現実的で強固なものにしていきました。そして、Nさんの情熱は、Aさんの心を少しずつ動かしていったのです。二人の間には、単なる業務上の関係を超えた、信頼と尊敬の念が芽生え始めていました。
イベント当日、キャンパスはたくさんの人で賑わっていました。地域の特産品を使った屋台には長蛇の列ができ、学生バンドのライブ会場は熱気に包まれています。子ども向けのワークショップでは、学生と地域の子どもたちが楽しそうに交流していました。Nさんは、活気に満ちた会場を見渡しながら、胸がいっぱいになりました。
Nさんは、会場の片隅で、Aさんと並んでその光景を眺めていました。
Aさん「Nさん、成功したな。こんなに多くの人が来てくれるとは、正直思わなかったよ。学生たちの笑顔もいいものだな」
Aさんが、Nさんの方を見て、ほんの少しだけ口角を上げました。その表情には、これまでの冷徹さはなく、柔らかな満足感が滲んでいます。Nさんは、その言葉に胸がいっぱいになり、思わずAさんに深々と頭を下げました。
Nさん「Aさん、本当にありがとうございました。Aさんがいなければ、このイベントは実現できませんでした。Aさんが、私たちの声に耳を傾けてくださったおかげです」
Aさんは、照れくさそうに「君が頑張ったからだよ」と小さく呟き、そっとNさんの肩を叩きました。
カウンセリングがくれたもの、そして対話の連鎖
Nさんは、オンラインカウンセリングでYさんが自分にくれた言葉を思い出していました。あの時、一人で抱え込み、諦めかけていた自分。しかし、Yさんとの出会いが、Nさんの心に再び火を灯してくれたのです。カウンセリングを受ける中で、Nさんは自分では気づかなかった強みを発見して、多様な意見を尊重し、対話を「開かれた状態」に保つことの重要性を、かつてのNさん自身の経験を通して気づかせてくれました。
イベントは大成功に終わり、後日、NさんはYさんに感謝のメールを送りました。
「Yさん、先日は本当にありがとうございました。Yさんとの対話を通じて、私は自分の強みに気づき、そして、他者の声に耳を傾け、共に解決策を探る対話の力を実感することができました。Aさんとも建設的な話し合いができるようになり、イベントも大成功に終わりました!本当に、Nカウンセリングオフィスに出会えて良かったです!」
Nさんの物語はここで幕を閉じますが、この物語が私たちに教えてくれる「対話の力」は、あなたの職場や日常生活にもきっと役立つはずです。この物語の背後にある心理的な側面と、「開かれた対話」の具体的なヒントについて、続く編集後記でさらに深く掘り下げていきます。
本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
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