編集後記：職場を変える「開かれた対話」の力

 

編集後記：職場を変える「開かれた対話」の力

　Nさんの物語をお読みいただき、ありがとうございます。Nさんの経験は、職場の人間関係や新しい挑戦における葛藤が、いかに私たちの心に影響を与えるかを教えてくれます。そして、その困難を乗り越えるために、「開かれた対話」がいかに重要であるかを浮き彫りにしています。

Nさんの心理的葛藤：見過ごされがちな心のサイン

　Nさんは、熱意を持って企画を進める中で、理想と現実のギャップ、そしてベテラン職員Aさんとの対立に直面しました。これは、心理学で言う「期待不一致」からくるフラストレーションです。さらに、Nさんは「独りよがりなのかな」「甘い考えなのかな」と自身を責め、夜間の不眠や食欲不振といった症状を経験しました。これは、強い責任感や完璧主義の傾向を持つ人に起こりやすい燃え尽き症候群（バーンアウト）の初期段階とも言えます。

　私たちは、つい頑張りすぎて、心のサインを見過ごしがちです。しかし、Nさんが友人からのアドバイスを受け入れ、オンラインカウンセリングという「対話の場」に足を踏み入れたことは、自身の回復、そして問題解決への大きな一歩となりました。

開かれた対話の鍵：オープンダイアローグの視点から

　Nさんの物語では、カウンセラーYさんとの対話が、Aさんとの関係性を変えるきっかけとなりました。このプロセスは、精神医療の分野で注目されているオープンダイアローグの考え方と共通する部分が多くあります。オープンダイアローグは、関係者全員が「今、ここで」感じていることや考えていることを共有し、対話そのものを治療・解決のプロセスとして重視します。

1. 自分とは違う価値観にも真摯に耳を傾ける: NさんがAさんの意見を「ラスボスからの呪文」と捉えていたように、対立する意見はしばしば固定観念として心に刻まれがちです。YさんはNさんに「Aさんの立場だったらどんな説明を求めるか」「Aさんの声の裏には何があると思うか」と問いかけ、Nさん自身がAさんの意見の裏にある「大学の安定運営を守りたい」というニーズや「失敗への懸念」に気づくよう促しました。オープンダイアローグでは、たとえそれが相反する意見であっても、関わる全ての人の声に耳を傾け、それぞれの視点があることを受け入れます。これにより、単なる批判ではなく、その人の「真実」として理解を深めることができます。

2. 対話を「開かれた状態」に保つ: Nさんは当初、企画が頓挫するかもしれないという不安を抱えていました。しかし、Yさんは結論を急がず、Nさんの過去の成功体験（ボランティアサークルでの「人を巻き込む力」と「逆境を乗り越える粘り強さ」）に焦点を当てました。NさんはYさんの問いかけに応える中で、自分の持つ力が「今の企画でも活かせる」と自ら言葉にし、自分自身で解決策を見つけだしました。オープンダイアローグでは、答えを急がず、対話のプロセスを重視します。不確実な状態を受け入れ、関係者全員が話し合いを続ける中で、新しい解決策や関係性が自然に生まれることを目指します。NさんがAさんに「新しい前例を、Aさんと一緒に作りたい」と提案できたのは、この開かれた対話の姿勢があったからです。

3. 問題に「新しい意味」を与える: Aさんを「ラスボス」と呼ぶことで、Nさんは自身の状況をユーモラスにリフレーミングし、感情的な負担を軽減しました。Yさんはさらに、「ラスボスを倒すにはどんなカウンター魔法があるか」「Aさんの懸念を建設的な声として捉えられないか」と問いかけることで、Nさん自身が問題解決のための具体的な行動へと気づくよう導きました。オープンダイアローグは、人が語る物語（ナラティブ）に焦点を当て、その物語に新しい解釈や意味を加えることで、問題に対する見方や、その人自身の自己認識を変容させます。これにより、これまで膠着していた状況に新たな可能性が生まれるのです。

あなたの「閉塞感」を「開かれた物語」に変えるために

Nさんのように、職場の人間関係や新しい挑戦に悩むことは、決して珍しいことではありません。重要なのは、一人で抱え込まず、対話の扉を開くことです。

• まずは信頼できる人に話してみる。

• 必要に応じて、専門家との「開かれた対話」の場を設けることを検討する。

　あなたの心の中にある「声」に耳を傾け、相手の「声」にも耳を傾けることで、問題に新しい意味が生まれ、あなた自身の物語が素晴らしい方向へと進んでいくはずです（時間はかかるかもしれませんが、きっと前に進めるはずです）。Nカウンセリングオフィスでは、あなたの強みを見つけ、新しい一歩を踏み出すお手伝いをしています。一人で抱え込まずに、気軽にご相談ください。

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【監修：Nカウンセリングオフィス】