うつ病と向き合う—Bさんの回復の物語【前編】

 うつ病と向き合う—Bさんの回復の物語 【前編】


日常を覆う時間

 Bさんは、40代の会社員。数年前までは仕事にやりがいを感じ、趣味の写真撮影や友人との交流を楽しんでいた。しかし、最近は何をしても心が晴れず、朝起きるのが苦痛になり、仕事でもミスが増えている。


 気力が湧かず、休日もベッドから出るのがやっと。好きだった写真撮影も、カメラを持つことすら億劫になった。友人からの誘いも断り続け、気づけば誰とも連絡を取らなくなっていた。


 職場では集中力の低下を指摘され、仕事のパフォーマンスが落ちていることを痛感する。上司の何気ない言葉にも過敏に反応し、自分を責める日々。家族から「元気がない」と心配されても、「大丈夫」と言うのが精一杯だった。


  一筋の光、そして決断

 ある日、会社帰りにふらりと立ち寄った書店で「うつ病からの回復」という本が目に留まる。立ち読みをするうちに、そこに書かれた症状が自分にそっくりだと気づき、思わず手に取る。


Bさん:「もしかして、自分もうつ病なのか?」そう思った瞬間、心の奥にわずかな希望が灯った。


 帰宅後、本を読み進める中で、「精神科や心療内科、カウンセリングなどの専門家に相談することは回復の手助けになる」という一文に目が留まる。翌日、意を決してNカウンセリングオフィスというオンラインカウンセリングの予約を取った。

  

 震える指先、初めての対話

 Bさんはパソコンの画面をじっと見つめながら、Nカウンセリングオフィスのオンラインカウンセリング開始時刻を待っていた。手は軽く震え、何を話せばいいのか分からないまま、不安が募る。

 時間になり事前に送られてきたリンクをクリックすると画面が切り替わり、穏やかな表情のYカウンセラーが映った。

Yさん:「こんにちは、Bさん。今日はお時間をいただきありがとうございます。」

柔らかい声に少しほっとするBさん。

Bさん:「よろしくお願いします…。あまり、こういうのに慣れていなくて…」

Yさん:「大丈夫ですよ。緊張するのは自然なことです。ここでは、どんなことでも話していただいて構いません。」

  

自分を責めるループからの脱却

 

 Bさんは言葉を絞り出すように話し始める。

Bさん:「最近、何もかもがうまくいかないんです。仕事でもミスばかりで、気力が湧かなくて…。休みの日も何もする気になれなくて…。好きだった写真も、もう何ヶ月も撮っていません。」

 YさんはBさんの言葉をじっくり聞き、静かに頷く。

Yさん:「それは、とても辛いですよね。長い間、そういう状態が続いているのでしょうか?」

Bさん:「はい…。最初はただ疲れているだけだと思ったんですが、最近はもう抜け出せない気がして…。」

Yさん:「抜け出せないと感じるのは、とても苦しいですよね。でも、Bさんはこうして相談するという一歩を踏み出されました。その勇気は、とても大切なことです。」


YさんはBさんの話を聞き終えると、穏やかな口調で尋ねた。

Yさん:「Bさんは、これまでどんな時に『頑張らなきゃ』と感じてきましたか? 例えば、仕事でミスをした時、どんな風に自分に声をかけていましたか?」


Bさんは少し考え込んだ。

Bさん:「そうですね…ミスをしたら、すぐに『もっと集中しろ』とか、『次は絶対に失敗するな』って、自分を追い込んでいました。完璧にできないと、ダメな人間だって思ってしまって…」


Yさん:「完璧にできないと、ダメな人間。そう感じていらっしゃったんですね。その『完璧』というのは、Bさんにとって、どんな状態を指すのでしょうか?」


Bさん:「えっと…周りから期待される以上の結果を出すこと、ですかね。常に期待に応えなきゃって…」


Yさん:「常に期待に応えなきゃ。そうですね。Bさんは、これまでずっと、周りの期待に応えようと、ご自身に高いハードルを課してこられたのかもしれませんね。」


 その言葉に、Bさんは胸を突かれるような思いがした。自分では当たり前だと思っていた「頑張り」が、実は自分自身を追い詰める原因になっていたのかもしれない。

 

 「弱さ」ではない病と向き合う

Bさん:「自分を責めてしまうんです。こんな状態になってしまったのは、自分が弱いせいだって…。」


Yさんは少し間を置き、優しく言葉を紡ぐ。

Yさん:「Bさん、ご自身を責める気持ち、とてもよく分かります。でも、うつ病は決して‘弱さ’の問題ではありません。むしろ、Bさんがこれまでどれだけ頑張りすぎてきたか、そのサインかもしれません。」


Bさん:「頑張りすぎ…?」


Yさん:「はい。Bさんは、ご自身が気づかないほど、心と体に無理をさせてきたのではないでしょうか。心が『もう休んでほしい』と、悲鳴を上げているのかもしれません。」


 その言葉が、Bさんの心にじんわりと染み渡った。自分は弱いからではなく、頑張りすぎた結果、心が疲弊してしまったのかもしれない。霧が晴れるように、新しい視点を得た瞬間だった。


 カウンセリングを重ねる中で、Bさんは少しずつ自分の気持ちを言葉にすることに慣れてきた。しかし、長年の習慣で自分を責める気持ちは簡単には消えない。カウンセリングを重ねる中で、Bさんはどのように自分を受け入れ、回復への道を歩み始めるのだろうか。そして、再び好きな写真に心が動く日は来るのだろうか?


後編では、Bさんが小さな一歩を踏み出し、回復への希望を見つけるまでの道のりをお届けします。


【注記】この物語はフィクションであり、登場人物や団体名は架空のものです。特定の個人や出来事を描写したものではありません。うつ病の症状や回復の過程には様々な過程がありますが、本作は一般的な理解に基づき描写しています。


監修:Nカウンセリングオフィス

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