咲く場所を求めて:自己主張が苦手なOさんの小さな一歩【前編】
前編:募るモヤモヤと新たな扉
市民病院の医療事務として10年。咲(さき)さんの朝は、いつも病院の独特の匂いから始まります。消毒液のツンとした香り、慌ただしく行き交う人々の足音、そして時折聞こえる救急車のサイレン。これらが咲さんにとって、もうすっかり日常の一部です。
咲は高校時代、吹奏楽部でクラリネットを吹いていました。目立つタイプではなかったけれど、パート練習ではいつも真面目で、音を合わせることに人一倍集中していました。その真面目さは、今の仕事にも活きています。患者さんの情報入力、会計処理、電話対応。どれも一つひとつ、正確さが求められる仕事です。
咲は、おとなしくて少し自己主張が苦手なところがあります。会議で意見を求められても、つい遠慮してしまったり、自分の考えを言葉にするのに時間がかかったり。でも、困っている人を見ると放っておけない、そんな優しい心の持ち主です。
小さな優しさが生む温かさ
ある日の午後、会計窓口でのこと。おばあちゃんが診察券をなくして困っていました。普段なら、事務的に「再発行になります」と済ませてしまうところですが、咲は違いました。咲「どこかで落とされたのかもしれませんね。一緒に探しましょうか?」そう声をかけ、おばあちゃんと一緒に、待合室や廊下をゆっくりと辿りました。結局、診察券は待合室の椅子の隙間から見つかり、おばあちゃんは「ありがとう、本当に助かったよ」と、しわくちゃの笑顔で感謝を伝えてくれました。その笑顔を見たとき、咲の心にはじんわりと温かいものが広がりました。
漠然とした不安と出会い
しかし、最近、咲の心には小さなモヤモヤが募り始めていました。仕事は好きだし、患者さんの役に立てることにやりがいを感じています。でも、このままでいいのだろうか?という漠然とした不安。職場では、後輩がどんどん意見を言うようになり、頼られる場面も増えてきました。そんな後輩たちを見ていると、自分ももっと積極的に、自分の意見を言えるようになりたいと思う反面、どうしたらいいのかわからない。
ある日、休憩時間にスマートフォンのニュースサイトを見ていると、「オンラインカウンセリング」という広告が目に留まりました。Nカウンセリングオフィス。オンラインで気軽に相談できる、と書いてあります。
咲「カウンセリングか……」
咲は少し迷いました。これまで、自分の悩みを誰かに話すという経験があまりなかったからです。しかし、心のどこかで、「誰かに話せたら、何か変わるのかもしれない」という期待もありました。数日後、咲は勇気を出してNカウンセリングオフィスのウェブサイトを開き、予約ボタンをクリックしました。
初めてのカウンセリング
そして迎えたカウンセリングの日。
Yさん「はじめまして、NカウンセリングオフィスのYと申します。本日はよろしくお願いいたします。」Yさんは、穏やかながらもハキハキとした声で挨拶しました。
咲は少し緊張しながら、咲「小野寺と申します。よろしくお願いします。」と返しました。
Yさんは、咲の緊張を察したのか、Yさん「オンラインでのカウンセリングは初めてですか?」と優しく尋ねました。
咲「はい、初めてです。少し、緊張しています…」咲は正直に答えました。
Yさんはにこやかに頷き、Yさん「そうですよね。でも、ご安心ください。ここは、小野寺さんが安心してどんなことでも話せる場所です。もし、話すのが難しいと感じることがあれば、無理に話さなくても大丈夫ですよ。今日は、まず小野寺さんが普段どんなことを感じているのか、どんなことで悩んでいるのか、ゆっくりお聞かせいただけますか?」
その言葉に、咲の肩の力が少し抜けました。
咲は、今の仕事のこと、後輩との関係、そして漠然とした将来への不安について、少しずつ話し始めました。咲「私、自分から意見を言うのが苦手で…後輩はどんどん積極的に仕事に取り組んでいるのに、私はいつも一歩引いてしまうんです。このままでいいのかなって、時々すごく不安になります。」
Yさんは、咲の話にじっと耳を傾け、時折「なるほど」「そうなんですね」と相槌を打ちました。
優しさの再発見
Yさん「小野寺さんは、ご自身が『自己主張が苦手』だとおっしゃいましたね。でも、先ほどお話ししてくださった、おばあさんの診察券を探してあげたエピソード。あれは、困っている人を見過ごせない、小野寺さんの優しさが表れている行動だと感じました。自分の意見を言えないからといって、決して消極的というわけではないと思いますよ。」
おばあさんの診察券を探したエピソードは、自分では「特に意識していなかった何気ない行動」でしたが、Yさんに話してみると自分の行動には自分の意識にはなかった違う意味を持っているようにも感じられました。
咲「そう、でしょうか…?」咲は少し戸惑いながらも、Yさんの言葉が温かく心に響きました。
Yさん「ええ、そうです。小野寺さんは、相手の状況を察し、それに寄り添うことができる素晴らしい才能をお持ちです。それは、医療事務というお仕事においても、とても大切なことではないでしょうか。では、その『自己主張が苦手』という部分について、もう少し掘り下げてみましょうか。例えば、具体的にどんな場面で、そう感じますか?」
Yさんの問いかけに、咲は自分の内側と向き合い始めました。
果たして咲は、Yカウンセラーとの対話を通じて、長年の悩みを乗り越え、自分らしく輝くことができるのでしょうか?
そして、彼女の「咲く場所」はどこに見つかるのでしょう。後編で、その答えが明かされます。
本ショートストーリーはフィクションであり、登場する人物、団体、場所などはすべて架空のものです。実在の人物や団体、出来事とは一切関係ありません。
【監修:Nカウンセリングオフィス】
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